捧げ物

□春乃咲香へ
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見覚えのある廃屋。

――早く行かなきゃ

どこへ?

――あの場所へ…

どこへ?

――あの瞳のある場所へ、あの約束の…

ふと、言いさして口をつぐむ。

約束…。

だれとの?

大切だったはずなのに、求める場所を知っていたはずなのに、思い出せない。

無意識に胸元を握る。

そこにあったもの。

あるはずのもの。

冷たい石の感触と、鼻をくすぐる匂い。

自分名を呼ぶ声。

たくさんの思いで。

たくさんの大切な者。

大切な人としたたった一つの約束。
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