凍てつき刃を振りかざせ
□呪
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第四話 呪
終業の鉦鼓が鳴ったので仕事を片付けて門を出て帰ろうとした昌浩は、敏次に呼び止められた。
最近は別に難癖をつけられるような行動もしてないし、真面目に仕事もしている。
あまり休んでもいない。
なんだろう。
何故か今日は見かけない物の怪がいたら嫌悪丸出しで、
また蹴りを食らわせようとするだろうなーなどと考える。
「ああ、間に合った」
目の前で足を止めて胸をなでおろした敏次に、昌浩は訊ねた。
「なんでしょうか」
訝る昌浩に敏次は書状を差し出した。
「行成様からの言伝で、晴明様へと」
「じい様にですか?」
祖父は齢七十を超えるが、未だにその力に頼る貴族からの依頼が絶えない。
いつだったか、物の怪が晴明は年なんだからそろそろ頼るのはやめてほしいと言っていたほどだ。
「つい最近、夢の中に恐ろしく、金と黒の縞模様の妖が現れたそうだ」
「きんとくろのあやかしが……?」
どくんと鼓動が跳ねる。
「ああ、そこで私がその妖怪の姿の事を聞き調べてみたら
『山海経』に載っていたのだ」
せんがいきょう…と呟く声は遠い。
嫌な予感がする。
――あの恐ろしい予感が。
聞きたくない。
――けれど、聞かなければ…。
「そして、その妖怪の名は――」
「『窮奇』……」
その“呪”はあの時からずっと怖れていた。
それを誰かの前で音に出してしまったら、それを形にしてしまったら、
そんな思いが微かに心の底にいつも燻っていた。
だから、ずっと見て見ないふりをしていた。
ケタケタと嗤う声がする。
それは恐ろしく、心を昏い霧で覆い隠すような声