凍てつき刃を振りかざせ
□始りと
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第五話 始り…
敏次は名を言い当てた昌浩に驚いた。
自分は金と黒の縞模様の妖が西海経に載っていたとしか言わなかったのに。
「昌浩殿どうしてそれを……?」
敏次の言葉が言い終わらぬうちに、彼の背後で悲鳴が上がり、不意に途切れた。
振り返ると、巨大な山椒魚に似たものが門を覆うようにして張り付いていた。
門番は逃げたか、化け物に食われてしまったらしい。
どろりとした黒い粘膜に表皮を覆われた、化け物はこちらの存在に気付いたのか
右往左往している貴族達には見向きもせず此方に向かってきた。
その化け物が漂わせる気配に、昌浩は覚えがあった。
雄の件が放っていたものに酷似している。
「昌浩殿、縛魔術か退魔術は使えるか!?」
「は、はい!」
慌てて頷く後輩にちらりと視線を向け、敏次は叫ぶ。
「同時に放つぞ!
――まがものよ、禍者よ、いざ立ち還れ、もとの住処へ!」
「オン アビラウンキャン シャラク タン!」
同時にそれぞれの術を放つ。
それをもろに受けた化け物は、白煙を上げて倒れあっちこっちに体液を飛ばす。