凍てつき刃を振りかざせ

□黒き胎動
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第七話 黒き胎動



後輩の声に振り返ったその時、自分に向かってくる妖怪の姿が見えた。

それは、自分の命を断ち切ろうとする鋭い爪を向けていた。

避けられない。

ならばと術を放とうとするも、化け物が放つ濃い瘴気に萎縮して体が動かない。

 あぁ、自分は死ぬのか?

自分でも驚くぐらいあっさりと死を受け入れられた。

けれど、母を一人残して逝くのだけが気がかりだ。

昌浩殿なら大丈夫だろう。

あの晴明様の孫であり、成親様達の弟君なのだから。

けど、誰かがこちらに駆けてくる。

その足音の主を知った時敏次は驚愕した。


 
――― 逃げろ!



そう声に出そうとしたがかすれて小さな音が出るだけだ。

必死に手を伸ばしてくる。

もう一度、喉に力を入れ声を出そうとしたとき、すさまじい衝撃が体を襲った。


もんどりうって転倒し、頭をしたたか打って痛いが構っていられない。

吹き荒れる風と瘴気の渦に体を持って行かれそうになるのを必死にこらえる。
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