いただきもの

□幸せな日
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(注)夢小説ではありません



陰陽師の見る夢には意味がある。


「……何をにやけているんだ?」


朝起きるなり物の怪は胡乱げに昌浩を見やる。朝起きてきた昌浩は機嫌がいいどころの話じゃ無かった。始終にやけており、気味が悪いことこの上ない。


「あっわかるー?」


昌浩はそんな物の怪の様子に全く気づく素振りもなく、再び笑みを深くした。もう隠す気すらないらしい。


「なんかさー、久しぶりに夢見がよかったんだよね」


花を周りに飛ばしながら昌浩は烏帽子をかぶる。

そういえば最近はいろいろなことが立て続けにおこって心身ともに疲弊していた。もちろんそんな時に見る夢がいいはずもなく、昌浩がよくうなされていたのは記憶に新しい。そんなことを思い出すと夢見が良かったことは喜べることなのではないだろうか。

端からみれば不審者そのものだが、自分さえ我慢すれば大丈夫だろう。物の怪はそう考え直し、昌浩を暖かく見守ってやることにした。


「陰陽寮では少し隠せよ」


釘をさすことも忘れずにそう言うと昌浩からは、はーいとなんとも気に抜けた返事が返ってきた。



陰陽寮についても昌浩の周りには幸せそうな雰囲気が漂っていたので、何人かの陰陽生から声をかけられた。


「昌浩殿、何かいいことでもあったのか?」


藤原敏次もそのひとりである。心なしか今日はいつもより表情が柔らかい。


「はい。今日はとてもいい夢見だったので」


にっこりと昌浩が応えると、敏次は少し驚いた表情をしたもののすぐに優しく笑った。


「夢見がいい、か…それは良かったな。陰陽師の見る夢には意味があるとよくいうが、一般的な夢は希望だ。その夢が本当になるといいな」


「はい」



互いに笑いあうと、昌浩の肩をぽんと叩き敏次はその場を去っていった。残された昌浩はその背を見送る。


「で、一体どんな夢を見たんだ?」


敏次の影が完全に消えてから物の怪が昌浩に問う。すると昌浩はいらずら気な笑みを浮かべ言った。


「内緒」


昌浩は思う。優しい日常、笑い合える毎日これがずっと続けばいいと。誰かが泣いているのはとても悲しい。心が痛くなる。

もし陰陽師の見る夢に意味があるのなら、その夢が本当になるのだったら、今日の夢をこの日常が現実になってほしい。これほどの幸福は無いと思う。出会った人みんなが笑顔になって、笑顔であふれる世界になればいい。夢が本当になればいい。昌浩はひとり青く澄んだ空を思った。



あとがき
天野由紀さまに捧げます。
サイト名「夢路に希いを込めて」をイメージして書かせていただきました。夢小説を扱っていらっしゃるわけではないので、夢にはしませんでした。
拙いところも多くありますが、よろしかったらもらってください。お持ち帰りは天野様のみ可能です。
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