IF〜もしもの世界〜

□儚き希いを聞きとどけ
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絶望



ざわざわと音をたてて花弁を散らす桜。

白く闇に映える花弁。

まるで季節外れの雪のようだ。

全ての音を包み込み、すべてを白い華の下に覆い隠してしまう雪。

けれど、冷たいその刃で時にはいとも簡単に命を奪う雪。

けれど、舞い散る花は異様な色をしている。



幹の形も。樹皮も、花の形も、すべて桜なのに、色だけが違う。

舞い散る花びらは淡い薄紫。

その合間から鋭い霊矢の刃が叩きつけられる。

それはいともたやすく体を切り裂き、紅い花を舞い散らせる。



絶望で凍てつく体。

ひらめく欠片の合間から、深い傷を負って血にまみれた昌浩を嗤っている。

響き渡る慟哭の歎き。

それは誰の・・・・・・



いくつもの誓い。



それを嘲笑っているかのように告げる。

牛の体に人の顔。

件。

『お前は愛する者の手にかかり命を落とすだろう』

驚愕する昌浩を見てさらに告げる。

『そして、愛する者たちもお前の手にかかり命を落とすだろう――――』



桜が舞っている。

昏い未来を示すかのように淀んでゆく世界。

白い儚き光。

短き螢の命のようだ。

螢。

――夏になったら蛍を見に行こう…

幼き日の約束。



ああ、また自分は…



最後に見えたのは顔を覆い、静かに涙を流す姿だった。

『……か…』

鈍い衝撃と灼熱の痛みが走る。

それを最後に全ては闇に閉ざされた。

2012/07/27
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