IF〜もしもの世界〜
□現人の世の詩を聴け
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序章 空蝉
――
生きたいか、生きたいか、
ならば力を与えよう。そして、我が力を降ろす柱となれ…… ――
◇◆ ◇◆
目覚めると知らない場所に倒れていた。
痛む腹の傷を抑えながら体を起こし、周りを見渡すも誰もいない。何の気配も感じない。
ただ、黄泉の瘴気の跡と森の清冽な気配のみが感じられるだけだ。
ということは、出雲なのだろうか。
祖父は…神将達は如何したのだろう。
封印は守れたのだろうか。
なぜ、自分は生きているのだろう。
大好きだった神将の魂を救うため軻遇突智の刃で貫き、そして、自らの命をあげることで彼を蘇らせ自分は川を渡るはずだった。
なのになぜ。
誰も答えてくれない疑問を頭の中で渦巻かせつつ、彼(・)は歩き出す。
行くあてもなく、とぼとぼと俯いて歩いていると突然視界が開けた。
―――森を抜けたのだ。
顔を上げると古い建築様式でたてられた邸が見えた。
大きさは安倍邸より大きい。
あそこへ行けばここがどこだか詳しく分かるかもしれない。
そして、そのそばの岩の上に二つの影があるのに気が付いた
―――人だ。
二十歳ほどの青年で、その鋭い眼光から放たれる殺気は青竜よりも恐ろしい。
服は生成りでむき出しの腕が寒々しい。
そのそばには大きな獣が降り、狼か犬に見える。
だが、ただの獣ではないことは分かる。
それは、妖力を持っており窮奇程でないにしろ強そうだ。
生成りの服を着た青年ははこちらが気が付くと岩を降り、獣と共にこちらに歩み寄ってきた。
ぐっと体をこわばらせ、警戒するとそれが伝わったのか数歩離れた所まで来ると足を止めた。
「……貴様は道反の者か」
それはただ紡がれただけにもかかわらず、ひどく重いものだった。
――重い…。なんて言霊の強さだ…。
この者に勝てないと、頭の中で警鐘が鳴り響く。
迫力に呑まれて、答えれない彼の沈黙を肯定だと受け取ったのか、青年はついっと指先を向ける。
すると、その指先に光が集まりバチバチの小さな雷のような音を立てる。
「ならば、貴様は敵だ…!!」
何か場爆発する音により、森の静寂は破られた。