主食。

□出せない答え
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隊士の相談にはたくさん乗ってきた。

その度にたくさんの答えを出してきた。

でも初めてだ。

答えが、見つからねぇよ。


《出せない答え》


―――鬼の副長。

その単語は何処へ行ってもよく耳にする。
何故なら。
俺を見るたび、周りが囁くからだ。

別に嫌とは思ってねェ。
むしろ、そのアダ名を心地いいとも思っている。

屯所や江戸の町を、刀を腰に、咥え煙草で飄々と歩く。

住民どころか屯所の隊士達さえも恐れる鬼の副長。
それがこの俺、土方十四郎だ。

ーーーーー…

いくら恐れられてるとは言え、隊士からの信頼がなくては上になんざ立てねェ。
今現在、副長としての立場を保っていけているのは、鬼の副長とは言えどもある程度の信頼はあるからということか。

隊士達から相談を受けるのも、そういうモンの1つかもな。

「なるほど…副長、ありがとうございました!!」
「ったく…分かったから早く部屋に戻れ」
「はい!!副長お休みなさい!」

バタバタと俺の部屋から出ていったのは若手の隊士。
いまいち、刀の手入れが上手くできなかったらしく相談に来た。

んな些細な事相談に来んじゃねェ、とか思わないわけでもねぇが些細な事でも頼られるのは悪くはない。

しんと静まる副長室。
手元の煙草を咥え、静まった部屋をぼんやり見渡す。
と、

ぴしゃんっ

突然襖が開く。

「あり、まだ起きてたんですかィ?」

襖からひょこりと顔を出したのは総悟だった。
風呂上がりなのか、髪がやや濡れている。

「ったり前だ。おめぇとは違って忙しいんだよ」
「報告書とか書かなきゃいけませんもんねィ」
「報告書書かせてんのはおめぇだろうが!!」

ツッコミを入れる俺をスルーし、総悟は俺の部屋に入ってきた。
そして、当然のように俺の向かいへどかりと座る。

「…何の用だ」
「いやぁ、さっきの隊士みてェに俺も土方に相談のって貰おうと思いやしてねィ」

ニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべている辺り、嘘のように聞こえる。

が、ふと真剣な顔をする総悟。

「好きな奴に告白する時ってどうしたらいいと思いやす?」

やけに真面目な顔で。
真っ直ぐと俺を見て。

「は?」

思わず目をぱちくりさせてしまう。
只の餓鬼だとばかり思っていたが…。

コイツもそういう年か…と思うとつい笑みがこぼれてしまう。

「何ニヤニヤしてるんでィ」

総悟に指摘され我に返る。
コホンと咳払いし、こちらも真剣な顔を見せてみる。

「で、その好きな奴とはどこまでの関係なんだよ」
「…まぁ、それなりに仲良いと思いやす」

いつも以上に無愛想だが、それが照れ隠しなのは重々承知だ。

「仲良いなら問題ねェだろ。告っちまえよ」

話の流れと普段の態度を思い浮かべると、相手はチャイナか?などと思いながら総悟に告げる。
が、俺の予想は外れる。

「…好きでさァ」
「は?」

総悟の口から紡ぎ出された言葉。
『好き』って…。

「総悟…何言って…っ」
「好きでさァ、土方さ」


───昔からアンタだけが。


「え、ちょ……ッ」

突然すぎて頭が追いついてねェ。
でも総悟は、すっきりした表情で。

「じゃ、土方さん、この相談の"答え"待ってまさァ」

何事もなかったかのように、副長室を出ていった。

昔から総悟は弟みたいなモンで。
そもそも男だろ。

ぐるぐると回る思考。


さぁ、どう答えを出そうか。





End.


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