短編夢小説V

□非リアには関係ない日
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今日はバレンタイン。





世の中の男達はそわそわと落ち着かなくなる日。





それは葬儀屋も例外では無く、朝から落ち着かない様子だった。





「アンダーテイカー」





恵梨華が声をかけると葬儀屋はビクリと反応した。





「な、なんだい?」





平静を装っているみたいだが、声が裏返っている。





「今日が何の日か知ってる?」





「きょ、今日かい?・・・さ〜あ?何の日だろうねェ〜?」





明らかに動揺している。





そんな強がっている葬儀屋が何だか可愛く見えてきて。





恵梨華の心に小さな悪魔が芽生えた。





「あ、そうなんだ?じゃあちょっとチョコレート作るの手伝って?」





葬儀屋の頭にハテナが浮かんだ。





「・・・へ?」





間の抜けた声が漏れる。





意外すぎる恵梨華の言葉に、葬儀屋の思考回路は完全に停止していた。





「お世話になってる皆にプレゼントしないとね」





葬儀屋の額に嫌な汗が流れる。





恵梨華はそんな葬儀屋にクスリと笑うと、動かなくなった葬儀屋をキッチンへと連れて行った。





キッチンまで到着した二人だったが、葬儀屋は相変わらず固まったまま。





「・・・テイカー?」





声をかけてみるが返事がない。





恵梨華は小さなため息をつくと、葬儀屋の目の前で拍手を打った。





―バチンッ





大きな音が鳴ると、葬儀屋はハッとしたように恵梨華の方を向いた。





「ほらほら、今日は沢山チョコを作らなきゃいけないんだから・・・」





半ば無理矢理、チョコレート作りが始まった。





黙々と作業をしていた葬儀屋だったが、ふと恵梨華の様子が気になった。





「(こんなに沢山のチョコ・・・一体誰に渡すんだろうねェ・・)」





チラチラと恵梨華の顔色を伺う葬儀屋。





「(ぐふふ・・ひょっとしてコレぜ〜〜んぶ小生のモノかなあ〜〜?♪)」





次第に葬儀屋の口元が緩んでいく。





ニヤニヤした顔で恵梨華を見ていると、恵梨華はその視線に気付いてしまった。





「ん・・・どうしたの?テイカー」





「い、いや・・・・その・・・」





サッと恵梨華から視線を外す葬儀屋。





そしてもじもじと人差し指同士を絡めあう。





「こ、このチョコレートは・・・一体誰に渡すんだい?」





恥ずかしいのか、葬儀屋の頬は桃色に染まっていた。





キラキラとした期待の眼差しで恵梨華を見つめる葬儀屋。





恵梨華はフッと小悪魔のような笑みを浮かべた。





「伯爵とー、セバスチャンとー、あとバルド達の分でしょー?」





指を折りながら数を数える恵梨華。





「あとグレルとウィルと・・・ロナルドにもあげなきゃねー」





葬儀屋の血の気がサーッと引いていった。





嫌なドキドキ感が葬儀屋を襲う。





「ほ、他に・・・・忘れている人はいないかい?」





恐る恐る恵梨華に問う。





「んー・・・・・あ!」





恵梨華は何か思い出したように手を叩いた。





「そうだ、アバーラインさんを忘れてたね!」





それを聞いた葬儀屋は落ち込んだように肩を落としシュンとなってしまった。





「そ、そうだね・・・・・警部補クンを忘れたら可哀相だねェ・・・」





葬儀屋のテンションは地の底へ。





フラフラしながら、自分に貰える予定のないチョコレート作りを再開した。





そしていよいよチョコレートが完成する。





恵梨華は子供のようにキャッキャと喜びながら、それらを丁寧にラッピングしていった。





その様子をため息をつきながら見ている葬儀屋。





葬儀屋の周りの空気は黒く濁ったような淀んだものになっていた。





「はぁ〜〜・・・」





大袈裟にため息をつき、必死に自分をアピールする葬儀屋。





恵梨華はそんな葬儀屋を気にする様子もなく、せっせとラッピング作業を続けていった。
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