短編夢小説V

□真夜中の神社
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真夜中の神社。





静まり返ったそこに響くのは、一人の足音。





―コツ・・・コツ・・





長い階段を上りきり、少し息を乱している女の子の姿。





それは恵梨華だった。





「はぁ・・・はぁ・・・・よ、よし・・!」





キョロキョロと辺りを見回し、誰も居ない事を確認すると小さくガッツポーズ。





恵梨華はそのまま神社へと歩いていった。





「それにしても・・・いい空気だなぁ・・・」





少し肌寒いが、それが心地よい。





まるで神社がそこの空気を浄化しているように、とても澄んでいた。





「ふふ、これで幽霊でも出てきたら面白いのに」





そんな事を呟きながら、恵梨華は賽銭箱の前まで来ていた。





ごそごそとポケットからお金を取り出す。





―カッ・・・チャリーン・・





お賽銭を入れ、目を瞑り、手を合わせて願い事をする。





こんな真夜中の神社に来たのには理由があるのだろう。





恵梨華は必死に、そして念入りにお願い事をしていた。





その時。





「ヒ〜ッヒッヒ・・・一体な〜にをそんなにお願いしているのかなあ〜〜?」





恵梨華はその声に驚き、勢いよく振り返った。





「ッ・・・・・・?!」





驚きのあまり言葉を失ってしまう。





恵梨華は目を見開いたまま、固まってしまった。





「ぐふふ・・小生の姿・・・そんなに珍しいか〜い?」





珍しいなんてもんじゃない。





恵梨華の後ろに立っていた男には狐耳が。そして尻尾が生えていたのだ。





ニタニタと不気味に笑うその姿は、夜の神社に相応しかった。





「・・・・・・あ、貴方は・・・何者・・?!」





「小生か〜い?・・・ヒッヒ・・小生はね・・・・妖怪なんだよ」





その言葉に、恵梨華はホッと胸を撫で下ろした。





「よかった・・・・コスプレでもした変質者かと思ったよ・・」





安心する恵梨華に、妖怪は不思議そうに首を傾げた。





「あれェ〜?君は小生が怖くないのかい?」





「えっ・・・・どうして?」





意外すぎるその質問に、恵梨華は目を丸くしていた。





そんな恵梨華の様子を見て、妖怪は不貞腐れたように口をへの字に曲げた。





「小生たち妖怪は、人間を驚かすのが仕事みたいなモノなんだけどねェ・・・」





「あら。じゃー退治しないと」





ポンッと手を叩き、思いついたように真顔で言う恵梨華。





妖怪は、こみ上げる笑いから逃れる事が出来ず、その場でお腹を抱え大笑いしだした。





「ぶっひゃっひゃっひゃひゃ!」





苦しそうに涙を流しながらゴロゴロと地面に転がる妖怪。





そんな妖怪に対して、恵梨華はポカーンとしていた。





「(私・・・変な事言ったかな?)」





心当たりがない恵梨華は、妖怪が笑い転げる様子をじっと見ていた。





暫くすると、妖怪は満足したのか、スッと立ち上がった。





そしてニタァっと不気味に口元を歪ませる。





「ヒッヒ・・・君みたいな人間は初めてだよ」





「そ、そう・・?」





「ああ、一応小生は九尾一族の末裔なんだけどね」





くるりと後ろを向き、九つの尻尾を動かして見せる妖怪。





恵梨華は嬉しそうな表情でその動きを目で追っていた。





「わぁ・・!動かせるんだね!」





感動が収まらない恵梨華は、そのままふよふよと動く尻尾に触れる。





「・・・あッ・・!」





ピクンッと妖怪の身体が反応した。





おまけに色っぽい声まであげて。





そして頬はほんのりと桃色に。





「・・・え?」





恵梨華はそんな妖怪を怪訝な顔で見ていた。





ハッと我に返った妖怪は慌てて弁解しだした。





「し、尻尾にだって・・・・神経は通っているんだよ?」





「ふーん・・」





「ふ、不意打ちだったから・・・変な声が出てしまっただけだから・・・ね?」





尻尾を後ろに隠すと、ゆっくりと後ずさりする妖怪。





恵梨華はそんな妖怪の行動に、無意識のうちにジリジリと近づいていった。





「な、なんだい・・?」





気まずくなり、恵梨華に問いかける。
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