短編夢小説V

□知りたくなかった事実
1ページ/3ページ

家族が、親戚が、恋人が、友人が。





周りの人間が次々と殺されていく。





いつしか恵梨華は、

悪魔の子として忌み嫌われるようになっていた。





今日もまた大切な人を失い、

恵梨華は葬式に参列していた。





”ねぇ・・・またあの子よ・・”





耳を塞いでも聞こえてくる陰口。





恵梨華に向けられる好奇の目。





皆、恵梨華を避けるように通り過ぎていく。





そんな恵梨華に、

一人の男が近づいていった。





「気にするコトはない。君は何も悪くないよ」





聞き慣れた優しい声色。





恵梨華が振り返るとそこには、

葬儀屋が立っていた。





「葬儀屋さん・・・」





初めて出会ったのは父親の葬儀の時だった。





悲しむ恵梨華に、

葬儀屋は優しい言葉をかけてくれた。





何度も葬儀で会ううちに、

徐々に惹かれていく。





「さあ・・・行こうか?」


「えぇ・・・」





こうして恵梨華は葬儀屋に連れられ、

無事に葬式を終えた。





それからというもの、

恵梨華は葬儀が無くとも葬儀屋の店に遊びに行くようになっていた。





「こ、こんにちは・・・」





何度訪れても慣れない不気味な雰囲気のお店。





しかし、葬儀屋の姿を確認すると、

安心してしまう自分がいた。





「ヒッヒッヒ・・・いらっしゃ〜い」





葬儀屋は嬉しそうに恵梨華をカウンターの席へと案内した。





「ぐふっ・・・そろそろ来る頃だと思っていたよ」





店内に漂うクッキーの香ばしい匂い。





葬儀屋は、恵梨華が店に来るたびに出来立てのクッキーをご馳走してくれる。





「さあ、紅茶も程よく冷めたトコだよ?今日もゆっくりしていってね」


「え、えぇ・・・」


「ああ、今クッキーを取ってくるからね」





そう言うと、

葬儀屋は奥の部屋へと姿を消していった。





店内に残された恵梨華は、

差し出されたビーカーを手に取った。





「(葬儀屋さんはすごく優しくて、私を歓迎してくれるけど・・・)」





ぼーっとそのビーカーに入った紅茶を眺める恵梨華。





「(私がこのままここにいたら・・・次は葬儀屋さんが狙われてしまうのかしら・・・)」





恵梨華は自分が周りになんて呼ばれているのかを知っていた。





”悪魔の子”





まさにその通りだった。





今まで恵梨華と仲良くなった人間達は次々と殺されている。





「(もしも今、葬儀屋さんまで失ってしまったら私・・・)」





恵梨華の表情が曇っていく。





そこへ、上機嫌な葬儀屋が戻ってきた。





「あぁあ〜・・・今日も美味しそうに焼けたよォ〜♪」





骨壷に顔を近づけ、

その香ばしい匂いを楽しむ葬儀屋。





しかし、すぐに恵梨華の異変に気が付いた。





「ん・・・?恵梨華、どうしたんだい?」


「あ・・・い、いえ・・・何でも・・・」





恵梨華は慌ててビーカーを置くと、

フイッと顔を背けた。





葬儀屋は何も言わないまま、

恵梨華の目の前の席に腰掛ける。





「何か・・・悩み事でもあるのかい?」


「い、いえ・・・その・・・・」


「小生で良ければ相談に乗るよ?」





落ち着いたトーンの優しい声。





恵梨華は静かに息を呑むと、葬儀屋に悩みを打ち明け始めた。





「実は・・・私は周りから悪魔の子と呼ばれているんです・・」





ギュッと拳を握り締める恵梨華。





「葬儀屋さんも・・・ご存知ですよね・・?最近の事件の被害者は皆、私の周りの人たちなんです・・」





今まで抑えていた何かがプツリと切れ、

恵梨華は身体をカタカタと震わせた。





「私・・・怖いんです・・・・このまま葬儀屋さんと仲良くしていたら・・・葬儀屋さんまで・・・」





ポタポタと大粒の涙が零れ落ちる。





「葬儀屋さんまで失ってしまったら・・・私・・・ッ」





すると葬儀屋は、

綺麗な人差し指で恵梨華の涙をすくった。





「大丈夫、小生は殺されないよ。絶対に・・・君を一人になんてしない」


「でも・・・でも・・・・!」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ