短編夢小説V

□小生の名前を思い出して
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「ここは・・・?」





目が覚めると森の中に立っていた。





辺りをキョロキョロと見回しながら、恵梨華は真っ直ぐと道なりに歩いていく。





すると目の前に小さな家が見えてきた。





「誰か・・・住んでるのかな・・?」





白い柵に囲われた庭には、大きなテーブルと椅子が用意されている。





テーブルにはずらりと豪華な食事や美味しそうなデザートが並べられていた。





「わぁ・・・すごい」





恵梨華が並べられた食事に気を取られていると、不意に声が聞こえてくる。





「ヒッヒッ、やっと来てくれたんだね」





その声に驚き、恵梨華はバッと声のする方へ振り返った。





そこには帽子をかぶった怪しい男が一人。





「貴方は・・・?」





「小生は帽子屋。ずっとココで君が来るのを待っていたんだ」





そう言うと、帽子屋は急かすように恵梨華を席に座らせた。





「あ、あの・・・!」





戸惑う恵梨華に、帽子屋はティーカップを差し出す。





「お茶は好きかい?」





「えっ・・・・は、はい・・」





その独特の雰囲気に流されてしまう。





帽子屋はクスリと笑うと、恵梨華の隣の席に腰掛けた。





「さ〜て・・・どこから話そうかねェ〜?ヒッヒッ」





テーブルに肘をつきながら、帽子屋は真っ直ぐと恵梨華を見つめている。





その視線が気になって仕方がない恵梨華。





「あの・・・何を話すんですか・・?」





「勿論、君の夢のお話さ」





「私の・・・?」





言っている意味が分からない。





恵梨華が不思議そうに首を傾げていると、帽子屋はその口を開いた。





「ぐふふ・・・コレは君が初めて見た夢のお話。そう・・・確か・・・」





――・・・君は偉大なる大天使。





そんな君は、前々から人間界に興味があったんだ。





毎日、人間界を泉に映し出して、それはそれは楽しそうに過ごしていたね。





そんなある日、君はある男に恋をしてしまった。





そう、それが小生だったんだ。





恋に落ちた君は全てを捨て、人間界に舞い降りるんだ。





ところが、神様というモノは凄く残酷で。





君から記憶すらも奪ってしまったんだ。





自分が何者かすら分からなくなってしまった君。





小生のコトが好きだった記憶すらも無く、君は路上で困り果てていたね。





でもね、そんな時、小生は君に出会ったんだ。





コレも運命ってヤツなのかなァ?





君の姿を一目見た途端、小生は君の虜になってしまったんだよ。・・・――





「どうだ〜い?少しは思い出してくれたかな?」





「・・・うん・・・何となくだけど、私・・・」





恵梨華が何かを言いかけると、帽子屋は恵梨華の唇に人差し指を押し当てた。





「今はまだ・・・・言わなくていい」





帽子屋のさり気ない行動に、恵梨華はドキッとしてしまった。





熱くなってしまった頬を悟られないように、隠すように両手を当てる。





「あ、あの・・・紅茶・・・・飲んでもいいですか?」





「・・・・まだ思い出してくれていないんだね」





ふんわりとしていた空気が一瞬、ピリッとする。





恵梨華は無意識のうちに肩を窄めていた。





「おっと。怖がらせてしまったね・・・」





帽子屋は慌てた手つきで、恵梨華の頭を優しく撫でた。





「君があまりにも他人行儀だったからねェ・・・寂しくなってしまったのさ」





「あ・・・・ご、ごめんなさ・・・ッ」





「いいんだよ。もう済んだコトだからね」





帽子屋は恵梨華の言葉を遮るように言い放った。





そして恵梨華のティーカップに角砂糖を入れる。





「さあ、次のお話をしてあげよう。・・・紅茶でも飲みながら楽にして聞いておくれ?」





「うん・・・」





言われるがまま、恵梨華はティーカップを手に取った。





そして一口飲んでみる。





「美味しい・・・」





美味しいだけじゃない、どこか懐かしい香りと味がした。





「ヒッヒ・・・君は小生の紅茶が好きだからねェ?おっと、お話をしないとね。・・・ああ、この話は・・・」
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