短編夢小説V

□知りたくなかった事実
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反論しようと顔をあげる恵梨華。





次の瞬間、

恵梨華の唇は葬儀屋によって奪われていた。





「ッ・・・・・?!」





突然の出来事に驚き、

目を見開いている恵梨華。





触れるだけの優しい口付け。





甘い甘い時間だった。





そしてゆっくりと唇が離れていく。





「大丈夫、小生は死なないよ」





前髪の隙間からチラリと見える黄緑色の瞳が、

その言葉に嘘偽りがない事を語っていた。





「・・・・わ、分かりました・・・」





ほんのりと桃色に染まる恵梨華の頬。





それから暫く、他愛も無い話に華を咲かせるが、

恵梨華の心臓は一向に治まらなかった。





「(わ、私・・・どうしたのかしら・・・)」





ドキドキが止まらない。





葬儀屋の声が、葬儀屋の姿が、葬儀屋の仕草が。





全てが美しく見えて、

全てが愛おしく見えて。





あまりにも早く脈打つ心臓に、

耐え切れなくなった恵梨華。





「わ、私・・・そろそろ行かないと・・・」


「そう・・・かい?・・・・それじゃあ、また遊びにおいで」





名残惜しそうに恵梨華を見つめる葬儀屋。





それだけで、

恵梨華の心臓は高鳴ってしまう。





「え、えぇ・・・」





一言残すと、

恵梨華はそのまま葬儀屋の店を後にした。


























家に着いた恵梨華。





しかし、考える事は葬儀屋の事ばかりだった。





「本当に・・・私、どうしちゃったのかしら・・・」





小さな溜め息は広い部屋へと消えていく。





もやもやとした気持ちのまま、

時間だけが過ぎていく。





いつの間にか、

夜中の12時を回っていた。





「・・・もうこんな時間」





眠る事も出来ず、

恵梨華は気分転換に散歩に出かける事にした。





「・・・ふぅ・・・・・」





夜のロンドンは静かで居心地がよかった。





ひんやりとした冷たい風が、

恵梨華の火照った身体を冷やしてくれる。





恵梨華は徐々に冷静さを取り戻していった。





「ん・・・・あら?」





適当に街を歩いていた恵梨華だったが、

そんな恵梨華の瞳に一人の男が映りこんだ。





「(あれって・・・葬儀屋さんよね・・?)」





真っ黒な衣服に美しく長い銀色の髪。





それは紛れも無く葬儀屋だった。





「(こんな時間に・・・お仕事かしら?)」





気になって仕方がない。





恵梨華はそのまま葬儀屋の後をつけていく事にした。





足音を立てないように、

静かについていく。





しかし、葬儀屋はどんどん街外れの暗い裏路地へと入っていく。





「(あの方も・・・散歩をしているだけなのかしら・・・?)」





不思議に思いながらもついていく恵梨華。





その時だった。





”や・・・やめろ・・・来るな・・・く・・・・・・ああああああああッ!”





静かな夜に響く男の断末魔。





恵梨華は陰からその現場を目撃してしまっていた。





「(う・・・そ・・・・でしょ・・・・?)」





舞い散る鮮血、

そこに立っているのは紛れも無く彼、葬儀屋だった。





見た事もないほどの大鎌を、

目の前の男の心臓に突き刺していた。





―ドサッ・・





恐怖で立っている事が出来なくなり、

恵梨華はそのまま尻餅をついた。





勿論、物音がした事に葬儀屋は気付いてしまう。





「そこに・・・誰かいるのかい?」





その声は、恵梨華の居る方へと向けられている。





”逃げなきゃ・・!”





冷や汗を流しながら、

本能が危険を知らせている。





しかし立つ事は出来ず、

恵梨華はもがくように座ったまま後ずさりしようとした。





その時。





「ヒッヒッ、この気配は・・・恵梨華、だねェ〜?」


「ッ・・・・・!?」





見られていないはずなのに、

自分の名前が呼ばれている。





恵梨華はその恐怖でその場から動けなくなってしまった。
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