短編夢小説V

□もしも葬儀屋がツンデレだったら
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「・・・・別に〜?それって私じゃなくてもいいんでしょ?」





思わず立ち上がり、葬儀屋と距離をとるように背を向ける恵梨華。





明らかに不機嫌オーラむんむんな恵梨華に、葬儀屋はオドオドしだした。





「や・・・・で、出来れば恵梨華にやって欲しいというか、何というか・・・」





「それに、私の夢だって医者じゃないの」





その怒りに身を任せて。





今なら本当の事が言える気がして。





恵梨華は背中越しに語りだした。





「私の夢はね・・・お嫁さんなの」





「・・・へ?」





葬儀屋の口から間の抜けた声が零れ落ちる。





暫く固まってしまった葬儀屋だったが、徐々に状況を理解していった。





「・・・それで・・・相手は誰だい?」





怒りがこめられたような低い声。





背中越しの静かな殺気に、恵梨華は肩を竦めた。





「ヒッヒッヒ〜、な〜んでそこで黙るかなァ〜?」





コツコツ、と聞こえる足音が近づいてくるのが分かる。





恐怖で振り向けないまま、言葉を発する事も出来ない。





「どうやら君は、小生を殺人犯にしたいようだね」





「え・・・?」





恵梨華は自分の耳を疑った。





思わずクルリと振り向いて葬儀屋を見る。





「どうして・・・アンダーテイカーが殺人犯になるの・・?」





率直な疑問をぶつける恵梨華。





「え・・・・だって恵梨華が他の男と結婚するなら小生はその男を・・・・」





ここで葬儀屋は、ある事実に気付く。





そう、その言葉は恵梨華が好きだと言っているも同然で。





「私・・・・自惚れてもいいんだよね・・?」





恵梨華の顔は耳まで真っ赤になっていた。





勿論、葬儀屋の顔もまるで茹蛸のように赤くなっている。





「ッ・・・・・い、いやぁ〜・・・その・・・」





「だってそれって・・・私の事が好きって言ってるのと同じ・・・でしょ?」





顔から火が出るんじゃないかと思うほどに熱くなっていく。





「違うなら違うって言ってよ・・・じゃないと私・・・・ッ?!」





恵梨華の言葉は葬儀屋によって遮られた。





無言のまま重ねられた唇。





「んっ・・・・・」





甘い甘い口付けだった。





何もかもが蕩けてしまいそうで。





頭の中が、嬉しさと恥ずかしさで混乱していく。





そして唇は静かに離れていった。





「き、君は小生の助手になればいい!」





照れ隠しのように吐き捨てられた言葉。





葬儀屋はそれだけ言うと、逃げるように屋上を後にした。





「・・・・・・」





一人、屋上に残された恵梨華は無言のままぼんやりとしていた。





冷たい風が、火照った身体に当たって心地よい。





「(今のって・・・プロポーズ・・?)」





へなへなとその場に崩れ落ちる恵梨華。





そして指は、自然と自分の唇へと向かう。





「私・・・アンダーテイカーと・・・!」





未だに葬儀屋の唇の感触が残っている。





心臓は高鳴ったまま、耳まで煩いくらいに響いている。





その時だった。





―キーンコーンカーンコーン・・・・





放課終了のチャイムが鳴り響く。





恵梨華はビクッと驚き、慌てて起き上がった。





「わっ・・・・先生に怒られちゃう・・!」





次の授業の先生は、学校でも有名なほどに怖い先生。





恵梨華の顔からサーッと血の気が引いていった。





「い、急がなきゃ・・!」





ダッシュで屋上を後にする恵梨華。





しかし、その表情はどこか嬉しそうなものだった。



-END-
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