短編夢小説V

□右肩のホクロ
2ページ/3ページ

ニヤリと怪しく微笑む女死神。





そして思い出すように、上を向く。





「貴方も知っての通り、彼の美貌は素晴らしい物があるでしょう?」





「え、えぇ・・・」





「でもね、あの方の魅力はそれだけじゃないの」





カウンターに肘をつき、過去を思い出しているのか、女はうっとりとした表情をしていた。





「ずば抜けた身体能力と処理能力、豊富な知識・・・私達死神は彼の事を”伝説の死神”と呼んでいたわ」





「で、伝説の死神・・・?」





その言葉を聞いて、葬儀屋の事を思い出す恵梨華。





死体を前にするとニヤニヤしながら作業を始める葬儀屋。





裏情報との交換条件は笑い、涎をたらしながら息を荒くしている葬儀屋。





出掛ける時はまるで犬のように尻尾を振りながら付いてくる葬儀屋。





とてもじゃないが、恵梨華の想像する葬儀屋のイメージとはかけ離れていた。





「あんな素晴らしい逸材は今後現れないかもしれない・・・美貌も能力も・・・全てが超越した存在」





困惑する恵梨華を他所に、女は熱心に過去を語り続けていた。





「彼の魂を回収する所、一度だけ見た事があるのよ・・・本当に素晴らしかったわ」





その時、女死神は不意に恵梨華の顔をチラリと確認した。





自分の話がまるで信じられないような表情をしている。





少しの苛立ちを覚えた女死神は、恵梨華に嫌がらせをと考えた。





「あぁ、忘れていた事がひとつあったわ」





「え・・・なんですか?」





「もうあの方の偉大さは分かったでしょう?だからね・・・死神達にすごい人気だったのよ」





「へぇ〜・・・そうなんですか」





恵梨華は興味無さそうに視線を逸らしていた。





「私もその一人なんだけど・・・・彼ったら、女をとっかえひっかえ・・・すごかったのよ?」





その言葉を聞いた途端、恵梨華はピクリと反応した。





「とっかえひっかえ・・・?」





恵梨華の興味を確信した女死神は、満面の笑みを浮かべていた。





「えぇ、彼はモテモテですもの・・・何人の女を泣かせようとも、誰も彼を責めたり出来ないからかしら」





「う・・・そだ・・・!アンダーテイカーがそんな事するわけないでしょ!」





逆上した恵梨華は、女死神の襟首に掴みかかっていた。





しかし、女死神は動揺する事もなく、淡々と話を続けていく。





「嘘じゃないわ。・・・・貴方、彼に抱かれた事ないの?」





恵梨華の表情が一気に暗くなっていく。





襟首を掴んでいた手首からスルスルと力が抜けていく。





「わ、私とアンダーテイカーは・・・き、清らかな関係だから」





苦し紛れのいい訳。





事実、葬儀屋とのそういう行為は一度も無かった。





「へぇ・・・やっぱり貴方みたいなお子様、あの方の趣味じゃないのね」





「なっ・・・・!」





頭に血が上っていく。





「っていうか・・・貴方の抱かれたって言う話は何の根拠もないじゃないですか!本当は嘘なんでしょ!?」





息を荒くしながら声を荒げる恵梨華。





すると、女死神はクスリと恵梨華を嘲り笑った。





「右肩の所に・・・ホクロがあるのよ」





「ッ・・・・・・!」





葬儀屋の素肌なんて見た事がない。





いつも神父服の黒いベールに包まれているから。





その女死神の言葉が本当かどうか、知りたい衝動に駆られてしまう。





心の中でそんな葛藤をしていると、突然女死神がビクリと肩を震わせた。





「きょ・・・今日の所は帰らせてもらうわ」





明らかに動揺している女死神。





少し声が裏返っていた。





そして逃げるようにそそくさと店を出て行ってしまった。





「い、一体・・・なんだったの・・・?」





恵梨華は不思議そうに首を傾げながら、女が出て行った扉を見つめていた。





するとそこへ―。





「恵梨華〜〜!」





名前を呼ばれたかと思うと、背中にズシッと重い衝撃が圧し掛かった。





「ああ・・・どうして今日は仕事場を覗いてくれなかったんだい?小生寂しくて死んでしまいそうだったよ・・・」





ぐりぐりと頬っぺたを恵梨華の後頭部に押し付ける葬儀屋。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ