短編夢小説V
□右肩のホクロ
3ページ/3ページ
「え・・・・・あ、あぁ、接客してたんだよ」
やっぱり、どう見ても伝説の死神になんか見えなかった。
「あぁあ〜・・・恵梨華の匂い・・・恵梨華の感触・・・」
まるで変態のような行動をする葬儀屋。
若干引き気味になっている恵梨華だったが、女死神の言葉が頭から離れなかった。
「(やっぱり・・・・確かめなきゃ・・!)」
意を決した恵梨華は、葬儀屋を近くにあった棺の上に押し倒した。
「えっ・・・・・・?」
長い銀色の髪がふわりと散らばる。
そして前髪の隙間から見える美しい瞳は驚いたように見開いていた。
「・・・・・・・」
恵梨華は無言のまま、葬儀屋の神父服のボタンをひとつずつ外していった。
恵梨華のそんな大胆な行動に、葬儀屋はパニックになっていた。
「ちょ、ちょいと恵梨華!?い、一体どうしたんだい?!」
わたわたと慌てだす葬儀屋。
「ちょ、まっ・・・!きゅ、急にどうしたんだい?!」
しかし、決して抵抗する事はなかった。
「ちょ、ちょいと・・・・恵梨華・・・!?」
ひとつ、またひとつ。
ボタンは着実に外されていく。
「ま、まだ心の準備が出来ていな・・・い、いや、そんなコトは・・!小生は恵梨華だったら・・!」
一人で騒いでいる葬儀屋、それとは対照的に静かな恵梨華。
「コ、ココは店だし・・・折角の恵梨華との記念だからベッドで・・・ああ!小生は何を言っているんだ・・!」
顔を真っ赤にしながらバタバタと暴れだす葬儀屋。
そして最後のボタンが今、ゆっくりと外れていった。
「・・・・・・綺麗・・・」
露になった透き通るような真っ白な素肌。
初めて見る葬儀屋の素肌は、とても美しかった。
「恵梨華・・・」
恵梨華の一言で落ち着いたのか、葬儀屋はうっとりとした瞳で恵梨華を見つめていた。
甘いムードが漂う店内。
そんな雰囲気をぶち壊したのは恵梨華だった。
ガバッと勢いよく神父服をひん剥くと、右肩を入念に確認する。
「ホクロ・・・・ホクロ・・・」
うわ言のように呟きながら、ホクロを必死で探す恵梨華。
「・・・・へ?」
葬儀屋は突然の恵梨華の意外すぎる行動に、ポカーンと口をあけていた。
暫く探し続けた結果、右肩にホクロが――なかった。
「よかった・・・」
恵梨華はホッと安堵の息を零した。
そしてカウンターへと戻ろうとする恵梨華。
葬儀屋は慌てて恵梨華の服を引っ張った。
「よ、よくないよ・・!小生にこんなコトをしておいて・・・放置していく気かい・・?」
上目遣いで恵梨華を見つめる葬儀屋。
上気した頬と潤んだ瞳に、恵梨華はゴクリと生唾を呑み込んでいた。
「(やっぱりさっきの女の話は嘘だったのね)」
恵梨華はこの時、女の言葉が嘘だと確信していた。
何故なら恵梨華は彼に抱かれたいのではなく・・・―。
-END-