短編夢小説V

□小生の名前を思い出して
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――・・・君は生まれつき身体が弱かった。





何をやってもうまくいかず、自分の居場所を探し求めていたね。





でも、生きるのに疲れてしまった君は、大罪を犯してしまう。





そう、自らの命を絶つコトを選んだんだ。





屋上から飛び降りた君は、死後の世界へと足を踏み入れる。





その頃、小生は現役の死神だったね。





君がやってきたのは丁度、小生が担当している冥界の門だった。





普通の人間なら泣いて助けを求めるモノなのに、君の決意は凄く固かったね。





どこまでも真っ直ぐで、君の澄んでいるその瞳に、小生は心奪われてしまったんだよ。





そして、そのまま門をくぐろうとする君を、小生はどうしても手に入れたくなったんだ。





だから小生は、君と契約を結んだ。





それがどういうモノなのか、君はわからない状態だったけどね。





簡単に言えばそう、愛の契約みたいなモノだったんだ。





永遠に離れられない愛の証。・・・――





「死神として生まれ変わった君との甘い生活・・・あぁあ〜、思い出すだけで興奮してしまうよ・・!」





「そ、そうだったね・・・」





恥ずかしいのか、恵梨華は目線を逸らしながら紅茶を飲んだ。





「ぐふっ・・・だいぶ思い出してくれたんだね」





「うん・・・私、いっぱい夢を見てきたなぁって・・」





「そうだね。君はず〜っと夢の世界を彷徨っていたのさ」





クスッと笑いながら、帽子屋はケーキに手を伸ばした。





そしてサッとカットすると、恵梨華の前に差し出す。





「甘いモノ・・・・好きだろ〜う?ヒヒッ」





「・・・うん!」





恵梨華は差し出されたケーキにフォークを入れ、形が崩れないように口へと運んでいった。





「紅茶も美味しいけど、ケーキも美味しいね!」





「ココにある食事やデザートは・・・ぜ〜んぶ君の為に用意したモノだからねェ?」





「私の・・・ために・・・?」





改めてその大きなテーブルの上を見る。





沢山の豪華な食事やデザート。





これら全てが、自分の為に用意された物。





それだけで、心が躍ってしまう。





恵梨華がボーっと机の上を眺めていると、唇に何かが押し当てられた。





「ぐふふ・・・小生特製のクッキーさ。勿論、焼き立てだよォ〜?」





「あむっ・・」





そのままクッキーを口に含む恵梨華。





しかし勢いあまってしまったのか、帽子屋の指まで頬張ってしまった。





「・・・・温かいね、君の中は」





「ぶっ・・・・ご、ごめんね・・?」





色香のある甘い声で囁かれ、恵梨華は思わず吹き出してしまった。





慌てて謝るが、帽子屋は恵梨華を熱のある眼差しで見つめ続けている。





「・・・・・・・」





黙ったまま、帽子屋は恵梨華が口に含んだ指をペロリと舐めた。





それはまるで恵梨華に見せ付けるように。





「甘い・・・・君の蜜は相変わらず極上の味がするよ」





「ケ、ケーキの甘さ・・じゃないかな・・・?」





見られているだけでおかしくなりそうだった。





心臓は激しく脈打ち、変な気分になってしまう。





平静さを保とうと必死になる恵梨華。





「ぐふふ・・・君があまりにも色っぽくてねェ・・・小生その気になってしまっていたよ」





「そ、その気って・・・」





「今すぐ食べてしまうのもいいけど・・・やっぱりデザートは最後に残しておかないとね」





そして再び思い出すかのように、帽子屋は空を眺めだした。





「次のお話は・・・・ヒッヒッ、今度は君のお気に入りの夢のようだよォ〜?」





「私のお気に入り・・・?」





「ああ、そうさ。君はな〜んどもこの夢を見ていたからねェ・・・確か小生との出会いは・・・」





――・・・そう、あれは小生の出張先、死体安置所だった。





いつものように小生は仕事でココに訪れていた。





でもね、部屋に置かれた棺を開けてみると、そこには誰もいなかったんだ。





奇怪しいなァ、なんて思っていると、突然君が現れたんだ。





見た目は伯爵と同じぐらいの少女。





でもどこか普通の人間とは違う雰囲気を感じたんだ。





そう、君は死ぬコトが出来ない身体だった。
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