短編夢小説V

□小生の名前を思い出して
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長い年月を生きてきた君、変わらない外見。





見た目と中身のギャップに、小生は何度も笑わせてもらったよ。





勿論、仕返しもされたんだけどね。





時折見せる無邪気な笑顔と挑発的な微笑み。





小生はいつしか、君がいなくてはならない身体になってしまっていたんだ。





子供の頃に戻ったような気分だった。





君の些細な行動に動揺したり興奮したり。





こんなにも誰かを愛おしいと思ったコトなんてなかったのさ。





だから不安になって喧嘩したりもしちゃったね。





でも必ず最後には・・・――





「そう、最後には熱い口付けを交わしてね、ちゃ〜んと仲直り出来るのさ」





「・・・その夢の続き・・・私、まだまだいっぱい見てきた気がする・・・」





「そうだね、色んな冒険に出掛けたりしたからね。ああ、新婚旅行ってヤツだねェ〜?」





「し、新婚旅行って・・・・・死神界へ?」





恵梨華の言葉にピクリと反応する帽子屋。





「・・・・もう少しで君は真実に辿り着けるようだ」





「えっ・・・・真実・・?」





「ヒッヒ・・・ソレは君自身で気付かなければいけないコト、かなァ〜」





「そ、そうなんだ・・・・私、ちゃんと真実に辿り着けるのかな・・・」





少し不安げに揺れる漆黒の瞳。





帽子屋はそんな恵梨華をなだめる様に、手の甲に口付けを落とした。





「大丈夫。君には小生がついているよ」





「帽子屋・・・さん・・」





「さあ、湿っぽくなってしまったけど・・・そろそろ次のお話をしてあげようか」





――・・・君は人一倍、努力家な死神。





周りのどんな死神たちよりも練習や勉強を積み重ねていた。





しかし、そんな努力も実らず君は任務に失敗し、大きな木の下で泣いていたね。





そこで小生と出会ったんだ。





小生はね、君の瞳に特別なモノを感じたんだ。





同じ死神のはずなのに、君の瞳はとても美しい色をしていたんだよ。





そのまま連れ去ってしまおうかと思ったけど、よく見ると君は肩から血を流していたのさ。





こうして小生は”手当て”という口実を得たんだ。





店について手当てを終え、小生は君が泣いていた理由を知りたくなっていた。





そしてその理由を聞いて、小生はチャンスだと思ったんだ。





君に魂の狩り方を教えるという口実で、君の傍に居るコトが出来るんだからね。





それから数年後、小生たちは息の合ったコンビになっていたね。





あれだけ退屈だと思っていたモノが、君と一緒なら素晴らしいモノに変わっているんだ。





振り向けば君の横顔がそこにあって。





小生に気付いて笑顔を向けてくれる。





小生はそんな君に、永遠の愛を誓ったんだ。・・・――





「ぐふふ・・・甘い甘〜い夢だったね」





「天使だったり人間だったり死神だったり・・・私は色んな夢を見てきたんだね・・」





「そうだよォ〜?・・・でもね、どんな姿になっても、君は君、恵梨華なのさ」





「どんな姿になっても・・・?」





その言葉を聞いて、恵梨華は静かに目を瞑った。





浮かんでくるのは見てきた夢の数々。





確かに姿は違えど、その心は、その魂は恵梨華そのもの。





そして必ずその隣にいるのは・・・―。





「ッ・・・・・・!」





恵梨華は思わず目を見開いていた。





そして目の前にいる帽子屋の顔を確認する。





「え・・・・あ・・・・・」





戸惑う恵梨華に、帽子屋はニヤリと口角を上げた。





「どうしたんだい?恵梨華・・・」





まるで全てを見透かしたような低く優しい声。





「帽子・・・屋・・・・さん・・・?」





違う。





恵梨華はある違和感を感じていた。





”帽子屋”





目の前の彼は初めにそう名乗っている。





しかし、今の恵梨華には、その名前に違和感があった。





「・・・・・・・」





寒くもないのに身体が震えている。





恵梨華が不安に言葉を失っていると、帽子屋と名乗る男はスッと恵梨華の手を取った。





「やっと気付いてくれたんだね」





「これが・・・・・・真実・・・?」





恐る恐るその顔を見る恵梨華。
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