短編夢小説V

□死神を愛した天使-改悪
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「ッ・・・・・!?」





辺りをキョロキョロ見回しながら、困り果てる一人の少女がいた。





彼女は自分が誰であるかすら覚えていない。





そう、彼女は人間界に降り立った大天使恵梨華だった。





天使の象徴である銀色の髪は漆黒の黒に変わり、美しい白い羽も消え失せていた。





ただ一つ、大天使の証である金色の瞳だけは、今もなおキラキラと輝いていた。





右も左も分からない少女は、暫くそこに立ち尽くしていた。





すると突然、目の前の店の扉がキィィという音と共にゆっくりと開いていった。





「おやぁ〜・・?こんなトコで何をし・・・ッ!」





男は彼女の姿を見るなり、そのあまりの美しさに言葉を失った。





「・・・・・?」





記憶を失っている恵梨華は、目の前の怪しい男を見てビクリと肩を震わせた。





神様は何と無情なのだろうか。





愛しい男を目の前にしても、記憶を失った恵梨華は何も感じない。





「あ、ああ・・・こんなトコで何をしているんだい?」





「私・・・気がついたらここにいたの」





恵梨華は悲しそうに、その長いまつ毛を伏せた。





「自分が誰なのか・・・どこから来たのかも分からなくて・・・」





憂いを帯びたその瞳に、葬儀屋は心が少し痛んだ。





「ヒッヒッヒ・・・とりあえず中へお入り?」





恵梨華は案内されるがまま、その怪しいお店へと足を踏み入れた。





「お・・・・お邪魔します・・・」





ギシギシと鳴る床。





そして目の前にずらりと並べられた棺の数々。





恵梨華は来てはいけない場所へと来てしまった気がしていた。





「今、紅茶を入れてあげるからねェ〜?ヒヒッ」





「あ・・・ありがとう・・」





「そこに座って、いい子に待っていておくれ〜?」





怪しい笑い声を響かせながら、葬儀屋はそのまま奥へと消えていった。





一人店内に残された恵梨華は、近くにあった棺に腰掛けた。





「私・・・一体誰なんだろう・・・」





思い出そうとしても、何も思い出せない。





それはまるで空っぽの状態。





空っぽの頭で考えても、答えなど出るはずがない。





恵梨華は深い溜め息をついた。





すると、自分の胸元にあるペンダントが目に付いた。





銀色のペンダントには、”恵梨華”と小さく刻まれていた。





「(私の名前は恵梨華って言うのかなぁ・・?)」





そんな事を思っていると、葬儀屋が店内に戻ってきた。





「ヒッヒッヒ・・・さ〜あ、どうぞ?」





透明なビーカーに入れられた紅の液体。





記憶が無い恵梨華は、ビーカーの中に紅茶が入れられている事に何の違和感も感じなかった。





何も疑う事なく、恵梨華は手渡されたビーカーを受け取った。





「ところで・・・キミはどの程度、記憶を無くしているんだい?名前は分かるかい?」





”名前”という単語で、ペンダントに刻まれていた名前を思い出す。





「あ・・・私、恵梨華って言うみたい・・・・ほら、ここに」





恵梨華は身に着けているペンダントを葬儀屋に見せた。





本当に何もかも覚えていないんだと知った葬儀屋は、少し苦笑いをしていた。





「本当に何も覚えていないんだねェ・・・」





「うん・・・ごめんなさい・・・」





しゅん、と肩を落として落ち込む恵梨華。





葬儀屋はそんな恵梨華の肩に、ポンッと手を乗せた。





「キミが謝るコトじゃあないさ」





「あ・・・・ありがとう・・」





葬儀屋の優しさに、肩の荷が下りたような気がした。





それから暫く雑談していると、恵梨華はふと、ある事を思った。





「あ・・・そういえば、貴方の名前は?」





「ぐふっ・・・・小生の名前はアンダーテイカー。ココで葬儀屋を営んでいるのさ」





「そうなんだ・・・・アンダーテイカー、私・・・これからどうしよう・・・」





当然、恵梨華には行く当てもなかった。





これからの事を考えると、不安で仕方がなかった。





その小さな身体が、小刻みに揺れる。





葬儀屋は、そんな恵梨華の姿に胸が締め付けられる思いがしていた。
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