長編夢小説
□大罪
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「また休みか。随分いいご身分なんだな」
−嫌・・
「こんな書類もまともに書けないのか」
−やめて・・・
「あんたがいるせいで再婚も出来ないじゃない」
−もうやめて・・・
「あんたなんか産まなきゃよかったわ」
−もうやめて・・・!
恵梨華は一人暗い部屋で頭を抑えながら蹲っていた。
目からは涙が止め処なく流れている。
「(私・・・なんで生まれてきちゃったんだろう・・・)」
元々体が弱い恵梨華。
ドジで何をやっても失敗ばかり。
人よりやる事が遅くて、それが周りを苛立たせる。
そして・・・母親からも疎まれている。
恵梨華の居場所はどこにもなかった。
小刻みに震える体。
もう涙は枯れて目は真っ赤に腫れあがっていた。
「(顔・・・洗わなきゃ・・・明日も仕事だからね・・・)」
バシャッ・・・バシャッ・・・
冷たい水で洗うが、目の腫れが引かない。
そして鏡に写る自分の姿を見た。
「(惨めな姿・・・)」
そっと鏡に手を伸ばす恵梨華。
「(もう私・・・頑張ったよね・・・)」
フラフラと覚束ない足取りで恵梨華は外へ向かった。
ヒュウゥゥ・・・
風が静かに吹いた。
恵梨華は屋上に一人、立っていた。
丁寧に靴を脱ぎ捨て、静かに下を見下ろす。
「(生まれてきて・・・ごめんなさい・・・。でも・・これで何もかもおしまいだから・・・)」
目を瞑り、一歩踏み出す。
体がふわりと落ちていく。
恐れなどなかった。
勇気などいらなかった。
傷ついた恵梨華の心はそれほどまでに衰弱しきっていた。
意識が遠退いていく。
深い深い闇の中へ吸い込まれていく。
ドサッ・・・
地面に落ちて恵梨華は意識を取り戻した。
「あれ・・・?私・・・屋上から落ちたはずじゃ・・・?」
キョロキョロと辺りを見渡すが、何もない。
「(これが死後の世界・・・?)」
混乱していると、目の前がいきなり光りだした。
眩しくて思わず目を閉じる。
しばらくするとその光は消え、恵梨華は恐る恐る目を開けた。
そこには巨大な門と、一人の男が立っていた。
手には大鎌のデスサイズが握られている。
「ヒッヒッヒ・・・ようこそ、恵梨華」
男が恵梨華の名前を呼んだ。
「しに・・・がみ・・・?」
「ああ、そうさ。小生の名前はアンダーテイカー。そしてここは冥界の門さ」
怪しい笑みを浮かべるアンダーテイカー。
恵梨華は恐れる事もなく、アンダーテイカーに近づいていった。
「この門をくぐれば・・・私は死ねるの?」
そっと門の扉に触れる。
「ヒッヒ・・・慌てなくてもこの門は逃げないよぉ?」
「あ・・・そうだね」
恵梨華は苦笑いした。
生前余程苦しんだのであろう、恵梨華の笑顔はとても痛々しいものだった。
アンダーテイカーはそんな笑顔を見て心を痛めていた。
「恵梨華・・・君は助かりたくはないのかい?」
「助かる?・・・私が救われるのは死んだその時だよ」
真っ直ぐな、どこまでも澄んだ瞳。
アンダーテイカーはそんな恵梨華に心奪われていた。
「恵梨華は変わった子だねェ、普通の人間なら泣いて助けを求めるもんだよ?」
「私ね・・・昔から病弱でね、私が生まれた時も・・・」
恵梨華は思い出話をした。
でもその思い出たちは、どれも悲しい話ばかり。
「でも小生は死神だからねェ、健康な体に生まれ変わらせる事だって出来るんだよぉ?」
口角を上げ、ニヤリと笑う。
普通の人間ならここまで言えばそれを求めるだろう。
しかし恵梨華は違った。
「あの世界に、私の居場所はないよ」
鋭い眼差し。
強い意志。
恵梨華に迷いはなかった。