長編夢小説

□小さなお客さん
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「きゃあああ!」





小さな女の子が馬車に轢かれた。





大人たちはその痛々しい光景に目を伏せた。





女の子の死体が死体安置所に運ばれていった。





ガタッ・・・





静かなそこに物音が響く。





物音の中心に女の子の姿があった。





「はぁ・・・一々こんな所に運ばなくてもいいのにね・・・」





ボソリと呟く少女。





とても少女とは思えないような女性らしい口調だった。





初めて自分の異変に気がついたのは生まれてから数十年経ったときだった。





周りの皆はどんどん大きくなっていく。





しかし自分の姿は小学生の時から変化していなかった。





思い出のアルバムを開くと、髪形だけは変わっていても、やはり成長していなかった。





最初は小人症なのだと思っていた。





しかし親が死に、友達が死に、それから知っている人がどんどん亡くなっていった。





何百年経とうと、少女が死ぬ事はなかった。





本当に自分は人間なのだろうか?とすら思えてくる。





少女は永遠とも思える長い年月を一人で過ごしてきた。





たまに事故でここに運ばれていた。





そのたびに変わっている社員に一々説明するのが面倒になり、そのうち勝手に帰るようになっていた。





いつものように、扉を開けようとする。





しかし、遠くからこちらへ歩いてくる足音に気がついた。





思わず棺桶の陰に隠れる少女。





キィィィ・・・





誰かが入ってきたようだ。





「それでは、後はよろしくお願いします」





「ヒッヒッヒ・・・小生にお任せあれ」





社員と思われる男はそのままその場を去っていった。





残された男は黒い葬儀服を着ていた。





「さあ・・・今日のお客さんはどんな子かねェ?」





不気味な笑顔を浮かべる葬儀服の男。





少女はその姿を見て驚いていた。





「ん〜?何も入っていないじゃないか・・・」





柩を開けた男がそう言った。





きっと少女の死体を処理しに来たのだと思われる。





「う〜ん・・・どうしたもんかねェ・・・」





困ったように頭をポリポリかく男に、少女は近づいていった。





「誰だい!?」





少女の気配に気づいた男は素早く後ろを振り向いた。





そこには可愛らしい女の子が立っていた。





「あの・・・貴方もしかして・・・」





少女は信じられない様子で男を見ていた。





「小生がどうかしたのかい?」





「私のお母様の葬儀をしてくださった方ですか・・・?」





男は少女の口調に少し驚いていた。





とても小さい子の発言とは思えない程丁寧なものだった。





「お嬢さんの母親の特徴はあるかい?いつ頃亡くなったとか・・・」





「もう何百年も前の話・・・なんですけどね・・・」





少女は悲しそうに俯いた。





「君・・・名前は・・・?」





「恵梨華・・・です。覚えていらっしゃいますか?」





「う〜ん・・・小生は葬儀屋だからねェ・・・沢山の人の葬儀をしてきたのさ」





「あの・・・貴方のお名前は・・・?」





「アンダーテイカーさ。あと敬語はいらないよ」





「わかったわ、アンダーテイカー」





恵梨華は優しく微笑んだ。





その笑顔はとても大人びていて、アンダーテイカーは思わず見惚れてしまった。





二人はそのまま柩に腰掛けた。





「ここに入ってたのは恵梨華なのかい?」





「そうなのよ・・・馬車に轢かれてしまってね・・・」





疲れたようにため息をつく恵梨華。





「アンダーテイカー・・・貴方も死ねない人なのかしら?」





「ヒッヒ・・・小生はただの死神さ」





長い間生きていた恵梨華にとっては、別に驚く事でもなかった。





「面白いわ・・・この前は執事の格好をした悪魔にも会ったもの・・・」





「伯爵の執事君・・か」





「あら?アンダーテイカーのお知り合いだったの?」





「ヒッヒ・・それより恵梨華、場所を変えて話さないかい?」





「・・・そうね、人が来たら面倒な事になってしまうもの」





二人はそのまま安置所を後にした。
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