超短編夢小説T
□過保護すぎる葬儀屋さん
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トントントン・・・
キッチンからリズミカルな音が聞こえる。
恵梨華は久しぶりに料理を作っていた。
いつもはアンダーテイカーが邪魔をして作らせてくれないのである。
しかしそんなアンダーテイカーも今はクッキーの材料を買いに街へ出かけている為いない。
「よ〜し!久しぶりに美味しいご馳走を作るぞー!」
恵梨華が気合を入れたその時だった。
「ただいま〜」
アンダーテイカーが帰ってきてしまった。
いつもならカウンターで本を読んでいるはずの恵梨華がいない。
アンダーテイカーは慌てて恵梨華を探し出した。
しかし匂いですぐにバレてしまった。
「っ・・・!恵梨華!何をしてるんだい!?」
慌てて恵梨華にかけよるアンダーテイカー。
恵梨華から包丁を取り上げると、恵梨華の手をまじまじと見ていた。
「はぁ・・・もし怪我でもしたらどうするんだい」
「ア、アンダーテイカー!私だって料理くらい出来るよ?」
「包丁なんて危ないもの握るのはお止め!」
「(私ちょっと前までデスサイズ握って魂回収してたんだけどなー・・)」
アンダーテイカーは聞く耳持たないように恵梨華を怒った。
「全く・・・これからはどんな時も小生と一緒にいるんだよ?」
ギュッと恵梨華を抱きしめるアンダーテイカー。
「ど、どんな時もって・・・///」
頬を赤らめる恵梨華。
「ヒーッヒッヒ・・・愛してるよ、恵梨華・・・」
優しく囁くとそのまま唇と唇を重ねた。
それからというもの、アンダーテイカーは常に恵梨華の傍に付きっきりだった。
外へ出かけるときも・・・
「転んだりしたら大変だからねェ?小生にしっかり捕まっているんだよ?」
「う、うん・・・」
ギュッと手を握られる。
はたから見れば誘拐に間違われても仕方が無いくらい滑稽な光景だった。
そして仕事の時すらも・・・
「さぁて・・・残すは伯爵のみだ。前回はオマケしてあげたけど・・・今回はしないよ?」
「くっそ・・・」
「仕方ありませんね。皆さん、どうぞ外へ。・・・絶対に、中を覗いてはなりませんよ」
そういうとシエル達は店の外へと向かった。
「さぁ、お嬢様もこちらへ・・・」
セバスチャンが恵梨華に手を差し出した。
ぺちんっ・・・
アンダーテイカーはすかさずその手を払いのけた。
「小生の可愛い恵梨華に触らないでくれるかい?」
少し殺意を帯びたその言葉に、セバスチャンは少し驚いていた。
「セ、セバスチャンごめんね!?今すぐ外に行くから・・・!」
恵梨華が慌てて扉の方へ向かうと、アンダーテイカーが後ろから抱きしめてきた。
「どこに行くんだい?小生から離れるなんて・・・許さないよ〜?」
耳元で囁かれ、恵梨華は固まってしまった。
そんなアンダーテイカーを見ていたセバスチャンは呆れたように言った。
「いつからそんなに過保護になったんですか?葬儀屋さん」
「うるさいよ!それより恵梨華も立派な葬儀屋なんだ、この子も笑わせてくれなきゃ困るねェ?」
セバスチャンは少しため息をついて恵梨華がいる事を了承した。
恵梨華は少し後悔していた。
あの時、アンダーテイカーがいない時、料理をしていなかったら・・・
でもそれはそれで寂しい思いをしていたのかもしれない。
人前であまり近づこうとしなかったあのアンダーテイカーが、
今はこうして誰の前であろうと抱きしめてくれる。
愛されているんだと感じられる。
こういう過保護なアンダーテイカーも・・・いいかもしれない。
恵梨華はそんな事を思いながら、アンダーテイカーを見つめた。
”愛してるよ、アンダーテイカー”
-END-