短編夢小説U

□失ってから気づくコト
1ページ/2ページ

「ごめんね、アンダーテイカー。私が好きなのは・・・セバスチャンなの」





聞きたくない言葉、聞きたくない名前。





小生特製のクッキーも紅茶も飲まずに店を出ようとする君。





―ああ、このまま手に入らないのなら・・・。





考えるよりも先に身体が動いていた。





デスサイズから滴り落ちる何か。





ポタポタと生々しい音が静かな店内に響いていた。





小生は真っ赤に染まってしまった恵梨華をそっと抱きしめた。





「他の男になんて・・・渡さないよ」





小生は動かなくなった恵梨華を抱きかかえ、仕事場へ向かった。





ひんやりとした地下の空気は心地良い。





小生はいつもよりも丁寧に、じっくりと時間をかけて恵梨華を綺麗にした。





「ああ・・・なんて美しいんだ・・・」





君はどんなお客さんよりも美しかった。





小生は地下の一番奥の部屋に恵梨華を連れていった。





「ここなら誰の目にも触れるコトはない・・・小生だけの・・・恵梨華・・・」





眠る恵梨華にそっと口付け、小生はその部屋を後にした。





それから毎日が夢のように楽しかった。





仕事を終えた小生は真っ先に恵梨華のもとへと向かう。





「ヒッヒッヒ・・・今日はこのドレスを着せてあげようね」





恵梨華はどんなドレスも似合っていた。





小生は恵梨華に真っ白なドレスを着せると、恵梨華の眠る柩に入った。





「今夜も一緒に眠ろうね。おやすみ・・・愛しの恵梨華」





恵梨華の頬にそっと口付けをし、小生も眠りに落ちた。





目が覚めると隣には愛しい君。





それだけで顔がニヤけてしまう。





小生は恵梨華にお目覚めの口付けをし、店へと向かった。





カウンターに座り人体模型の手入れをしていると、馬車の音が聞こえてきた。





どうやら伯爵が来たようだ。





小生はいつものように柩に隠れ、伯爵が来るのをじっと待っていた。





「いるか?アンダーテイカー」





「・・・ヒッヒ・・・・よぅ〜〜こそ伯爵・・・」





いつものように裏情報を求めてくる伯爵。





小生はいつものように極上の笑いを求めた。





仕事が終わり、小生はいつものように恵梨華のもとへと向かった。





「ぐふっ・・・聞いておくれよ恵梨華。今日は伯爵が極上の笑いをくれたんだよぉ〜?」





恵梨華の柔らかな髪を撫でながら、小生は今日の伯爵の話をした。





「イッヒッヒ・・・どうだい?面白いだろ〜う?」





勿論返事は無い。





小生の笑い声だけが虚しく部屋に消えていく。





―ああ・・・小生は取り返しのつかないコトをしてしまった・・・。





小生はこの時初めて後悔をした。





こんなにも面白い話をしているのに、一緒に笑ってくれない恵梨華。





こんなにも美しい君の笑顔はもう二度と見るコトが出来ない。





その笑顔を奪ったのは小生なのだから・・・。





「ああ・・・恵梨華・・・笑っておくれよ・・・」





目から熱いモノが零れ落ちる。





これが噂に聞く、涙というヤツなのだろうか。





「恵梨華の可愛い声を・・・聞かせておくれよ・・・」





真っ白な恵梨華の肌に、透明な液体がポタポタと落ちる。





小生が欲しかったのは・・・小生が本当に手に入れたかったのは・・・こんな・・・こんな恵梨華じゃ・・・。





”アン・・・・・テ・・・カー・・・?”





どこからとも無く声が聞こえてくる。





”アンダーテイカー・・・?”





聞き覚えのある声。





小生が大好きな声。





小生が一番聞きたかった君の声。





「アンダーテイカー?」





目の前に困った顔をしている恵梨華がいた。





「恵梨華・・・?」





小生はおもわず目の前の恵梨華を抱きしめていた。





「ちょ・・・!アンダーテイカー・・!どうしたの?く、苦しい・・・」





「ああ・・・恵梨華・・・。小生の恵梨華・・・」





状況が理解できなかった。





でもそんなコトは小生にとってはどうでもよかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ