短編夢小説U

□複雑な関係
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運命とは時に残酷なもの。





私はあの日ほど後悔した事はなかった。





そう、あれは恵梨華が屋敷に遊びに来た時の事だった―。





「それにしてもシエル君は本当に美味しそうな魂の色をしてるね」





坊ちゃんを見つめうっとりとした表情をしている恵梨華。





「・・・そうなのか?」





「うん、珍しい色・・・本当に綺麗な色だよ」





「珍しいといえば恵梨華の方が珍しいと思うぞ」





私の入れた紅茶を一口飲むと、坊ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。





「恵梨華ほど悪魔らしくない悪魔は見た事がないしな」





「そう・・・かなぁ?」





頬に指を当て不思議そうに首を傾げる貴方。





嗚呼、そんな些細な仕草が私を狂わせるのです。





貴方に初めて出会ったのはもう何百年も昔の事。





恋に落ちた私は必死に貴方を口説き落とした。





やっと手に入れた恵梨華。





愛おしくてたまらない。





私は貴方の笑顔がもっと見たくて、ある提案を坊ちゃんにした。





「坊ちゃん、折角恵梨華がいらしているのですから、他に誰かをご招待されてはどうでしょう?」





「・・・そうだな。恵梨華も大勢の方が楽しいだろ?」





「うん!楽しいお茶会にしようね!」





無邪気に喜ぶ恵梨華に思わず顔が緩んでしまう。





「問題は誰を呼ぶかだな・・・」





机に肘をつき、考え込む坊ちゃん。





「そうですね・・・劉様や葬儀屋さんなどをご招待されてはいかがでしょうか?」





この一言が私を地獄の底へ突き落とす事になろうとは、この時の私は夢にも思ってもいなかった。





「では急いで手配しろ」





「畏まりました」





しかし劉様は都合が悪いらしく、来てくださるのは葬儀屋さんだけになった。





暫くすると葬儀屋さんが現れた。





「ヒッヒッヒ〜、来たよぉ〜伯爵」





「・・・不本意だが恵梨華の為だからな」





「おや・・?見かけない顔だねェ?」





「あ・・・・初めまして・・・」





運命の歯車が狂い始める。





二人は見つめあったまま立ちすくんでいた。





ほんのりと頬が赤い恵梨華。





私はこの時、途轍もなく後悔していた。





あの時、葬儀屋さんの名前を出さなければ・・・。





しかし気付いた時には手遅れだった。





出会ってしまった二人は恋に落ちていく。





あのお茶会から数週間が経過した。





私は坊ちゃんに仕えながらも恵梨華の様子を観察していた。





恵梨華の気配が、葬儀屋さんの店からする。





しかし坊ちゃんに仕える私にはどうすることも出来なかった。





私に会いに来てくれるのを今か今かと待ち望んでいた。





すると久しぶりに恵梨華が会いに来てくれた。





「久しぶりですね、恵梨華」





「えっ・・・?そ、そうかな・・・?」





少し慌てた様子の恵梨華。





「ええ、そうですよ。・・・一体どこに行っていたのですか?」





本当は分かっている。





「・・・新しいご馳走探し・・・かな」





嗚呼、そんなにもあの方を想っていらっしゃるんですね・・・。





「そう・・・ですか」





問い詰めれば今の関係が壊れてしまいそうな気がして。





私は真実を知りながらも、そっと胸の奥深くへと仕舞いこんだ。





「恵梨華・・・さぁ、こちらへ」





片手を差し出すと、恵梨華は戸惑いながらも私の手を握った。





私はその手を引き寄せ、抱きしめた。





「いい魂が見つかるといいですね・・・ですが大丈夫ですよ、貴方には私がついておりますので・・・」





「セバスチャン・・・」





「なんて顔をしているのですか?恋人とのひと時にそんな顔は似合いませんよ?」





”恋人”という言葉を強調する。





恵梨華には悟られないように、密やかに。





「セバスチャン・・・私・・・ッ!」





私は恵梨華の唇を自分の唇で塞いだ。





貴方の言いたい事は分かっている。





しかしそれを貴方の口から聞くのは・・・。
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