短編夢小説U
□一度貴方になってみたかった
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ゴチンッ・・・!
店内に響く鈍い音。
恵梨華と葬儀屋は頭を押さえながら痛みに耐えていた。
「痛ぅ・・・ちょっとアンダーテイカー!気をつけてよ・・・ね・・・?」
葬儀屋を睨みつけてやろうと顔を上げた恵梨華は目を見開いて驚いた。
恵梨華の瞳に映りこんだのは自分の姿。
まるで鏡でも見ているような錯覚に陥る。
「え・・・?な、なんで・・・?」
気付けば自分の声も違う。
そう、この声は恵梨華の大好きな・・・。
「ア、アンダーテイカー・・・顔を上げて私の姿を見て・・・?」
「それより恵梨華。いつからそんなに声が低く・・・・・・ッ?!」
顔を上げた葬儀屋も目を見開いて驚いた。
「「入れ替わった・・・!?」」
二人は声を揃えて言っていた。
「ど、ど、どどどどうしよう・・・!」
おろおろとする恵梨華。
勿論見た目は葬儀屋なわけで。
なよなよとした自分の姿に、葬儀屋は目を伏せた。
「た、頼むからその姿で可愛らしい行動をするのはやめておくれ・・・?」
「あっ・・・ご、ごめん・・・」
恵梨華はその場にシュンと座り込んだ。
「さっき頭をぶつけたショックで入れ替わってしまったのかねェ〜?」
「・・・もう一回頭をぶつけたら戻れるかも・・?」
早く戻りたい恵梨華は、葬儀屋の返事を聞かずに突然頭突きを食らわせた。
「い゛っ・・・!」
目の前の自分が頭を押さえて痛がっている。
恵梨華は葬儀屋の身体なので平気な様子だった。
「あぁ・・・戻ってないや・・・」
大きなため息をつくと、カウンターの席に腰掛ける。
葬儀屋は慌てて恵梨華のもとに駆け寄った。
「に、人間はこんなにも痛みを感じる身体なんだねぇ・・・」
「逆に全然痛くなかったよ、この身体」
葬儀屋の方を見ようとしたが、勿論姿は恵梨華な訳で。
まるで自分に話しかけているみたいで気持ち悪い気分になる。
「はぁ・・・気持ち悪いからあっち行ってよ・・・」
フイッとそっぽを向きながら言う恵梨華。
するとガラスに映った自分の姿が目に入った。
「こ、これは逆にチャンスだよね・・・!」
恵梨華は目を輝かせながらお風呂場へと走っていった。
葬儀屋は不思議に思いながらも、恵梨華のあとをついていった。
お風呂場の鏡の前に立つ恵梨華。
ゆっくりとした手つきで長い前髪を持ち上げた。
「おー・・・!」
鏡に映る自分の姿に興奮している恵梨華。
鏡には素顔の葬儀屋が映っている。
思わず顔がニヤけてくる。
その様子を見ていた葬儀屋が不気味に口角を上げた。
「ヒッヒッヒ・・な〜にをしているのかなぁ〜〜〜?」
勿論声は恵梨華の声だ。
恵梨華は顔を真っ赤にしながら振り返った。
「べ、別に何もしてないよ!」
「・・・ああ、本当の恵梨華の姿で見たかったよ・・・」
頬を染めた自分の姿を見ても興奮する事など出来ない。
葬儀屋は少しがっかりした様子で肩を落とした。
「にししっ♪そーだ!シエルの所行って来るね!」
「な、何をしに行くんだい?」
「一度やってみたかったの!アンダーテイカーを!」
妙にテンションが高い恵梨華は、葬儀屋の制止も聞かずファントムハイヴ邸へと走っていった。