頂き物

□夢幻狂騒曲
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薄暗い闇が広がる大きなホール

舞台の上には複数の燭台が置かれ

すぐ側で、ざわめきが聞こえる。







「…ん、…」




葬儀屋は微睡みから目覚めると、何度か瞬きを繰り返し、視線をゆっくりそちらへと向けた。





ザワザワザワ…






「…ここ…は…?」





すると、大勢の観客が好奇の視線を自分へと注いでいた。







―――あぁ、そうだ。

小生はココが何処かを

よく知っている。




色と欲に溺れた者たちが巣食う

退廃的な享楽の宴

そう、ココは伏魔殿。

あの鬼畜副協会長の屋敷の地下室

もう、二度と思い出したくもない

最低最悪な胸糞悪い場所








「これは、夢…なのか?」





つい先程まで、愛しい彼女を腕に抱いて寝ていたはずなのに―――。




その両腕は、今は枷と鎖に繋がれ、壁に貼付けられていた。





ジャラララ…




少し身動きしただけで、金属独特の耳障りな音が響く。





手首に感じる固く冷たい枷の感触は、とても夢とは思えない生々しいものだった。しかし、此処が夢の世界であることは間違いない。






何故なら―――。






「どうして、君がいるんだろうねぇ?」





葬儀屋は大きな溜息を零すと、目の前に立つ人物を睨みつけた。






「フフッ…お目覚めですか?我が君」





視線の先には、二度と会いたくない男がいた。死神特有の黄緑色の瞳を細め、至極楽しげに口元を歪めるその顔は、間違いなく副協会長その死神だった。





しかし、彼は協会長の手によって、すでに狩られた身。そんな相手が目の前にいる事自体、夢である証拠。





「はあぁぁ…例え夢だとしても、君にだけは会いたくなかったよ」



「随分ないわれようですね?貴方に恋焦がれる者に向かって」



「誰も惚れてくれなんて、頼んでないよ」





葬儀屋は心底嫌そうに吐き捨てると、冷たい視線を向けた。





「………で、コレは一体何の真似だい?」



「フフッ…何の真似とは可笑しな事を仰いますね?今、ご自分が仰ったではありませんか?此処は夢の中だと。つまり、全ては貴方の意思次第」



「へぇ〜、コレが小生の望みねぇ…?ふざけたコトばかりほざくんじゃないよ!」



「勿論。ふざけてなどおりませんとも」





訳の分からない状況に、葬儀屋は苛立っていた。これが自分の夢ならば、何故こんな鬼畜を登場させたりしたのか…と。





すると、そんな葬儀屋の考えを読み取ったように、副協会長は口を開く。





「では、証明致しましょう。彼方自身が、こうなる事を望んでいるのだと―――」






口の端をニッと吊り上げると、葬儀屋へと手を伸ばし、その頬をそっと撫でていく―――。






ツツツ…ッ…





―――ビクッ!





「…っ!」






勿論、夢だと理解はしていた。しかし、いくら頭で理解していても身体が許さなかった。自然と拒否反応は起こり、体中に嫌悪感と怒りが走り抜ける。




ジャラララ…





「いい加減にしておくれ」





葬儀屋は嫌そうに顔をそむけると、一際低い声で吐き捨てた。






「君の茶番に付き合う気はない」






―――あの時は

恵梨華を助ける為に

水晶水が必要だった。




それを手に入れる為なら

どんな屈辱的行為をも

受け入れようと覚悟した。




―――でも、今は違う。







葬儀屋は鎖をギュッと力いっぱい握り締めた。





ギリギリギリ…





「あの時と今とじゃ、全然状況が違うんだよ…っ!」





引き千切る勢いで、鎖に力を込めていると、不意に横から笑い声が聞こえた。





「フフッ…さあ?それはどうでしょう」



「…なんだって?」



「フフッ…言ったはずです。これは、貴方が望んでいる事だと」





シュルン…




意味深な微笑みを湛える副協会長の手には、あの時同様に、いつの間にかしっかりと鞭が握られていた。
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