連載夢小説T

□小さなお客さんX
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「ああ・・・小生は一体何をやっているんだろうねェ・・・」





一人図書館に残された葬儀屋はゆっくりと真っ白な長い机に腰掛けた。





いつもの笑顔はなく、後悔に苛まれていた。





「恵梨華は人間で小生は死神で・・・そんなの関係ないじゃないか・・・」





あの時の自分の言った事を思い出しながら呟いた。





”死神の機密事項だから”





愚かな言動をしてしまった自分に、葬儀屋は苦笑いするしかなかった。





恵梨華を守るために吐いた嘘が、恵梨華を深く傷つけてしまった。





葬儀屋はうなだれるように机の上に寝転んだ。





「ああ・・・恵梨華・・・」





力を失った弱々しい目がぼんやりと恵梨華が消えていった扉を見つめる。





すると閉まっている扉が音を立てて開いていった。





ギィィィ・・・





葬儀屋の瞳に赤いものが映りこむ。





「アンタ、一体ナニやってんのヨ?」





現れたのはグレルだった。





グレルは葬儀屋に声をかけるが、葬儀屋は起き上がろうともしなかった。





「はぁ・・・なんだ、赤い死神クンか・・・」





だるそうに言うとフイッとそっぽを向いてしまった。





「なんだジャナイわヨ!恵梨華はどうしたの!?」





「騒ぐんじゃあないよ・・・耳が痛い・・・」





そんな弱々しい葬儀屋に腹を立てたグレル。





葬儀屋に駆け寄るとその胸倉を掴んで持ち上げた。





「ナニがあったのヨ」





「・・・・・」





ぼんやりとグレルを見ているだけの葬儀屋。





呆れたグレルは力の限り葬儀屋を揺さぶった。





「答えなさいヨ!」





葬儀屋は眉を寄せながらキッとグレルを睨みつけた。





しかしいつもの威圧感や迫力がない。





弱りきったその瞳で睨みつけられても効果はなかった。





「恵梨華がね・・・自分のドゥームズデイブックを見たいって言い出したのさ・・・」





「そ、それは・・・」





葬儀屋の胸倉を掴むグレルの腕から力が抜けた。





「死神の君なら分かるだろう?自らの本を手にした者がどういう末路を辿ったのか・・・」





「・・・人間に恋した死神が本を持ち出し逃げ出したあの事件ネ・・・」





「小生はね・・・恵梨華にそんな道を辿って欲しくないのさ・・・」





グレルを見ていた葬儀屋だったが、力なく俯いた。





「・・・それで?恵梨華になんて説明したのヨ?」





「・・・・・そんなコト・・・説明出来るワケないだろう・・?」





「まぁ・・・大体見当はついたワ・・・」





グレルはため息をつきながら両手を広げた。





「で、何でアンタはここにいるのヨ」





「・・・・・」





言いたくないのか、葬儀屋はまた黙り込んでしまった。





「ただの誤解でショ?すぐに追いかけてその誤解を解けばいいだけの話ジャナイ」





葬儀屋は切なそうな瞳で扉の方を見つめた。





「ついてこないでって言われたのさ・・・」





すると突然静かな図書館にけたたましい音が響いた。





葬儀屋は驚いたように音のする方を見た。





「ど、どういうつもりだい!?」





視線の先にはデスサイズを起動させたグレルが居た。





自慢のギザギザの刃をむき出しにしながら口をヘの字に曲げている。





「呆れた。こんな知らない土地で恵梨華を一人にするなんて・・・」





まるで汚いものでも見るかのように冷たい目で葬儀屋を見下す。





「やっぱアンタとじゃ恵梨華は幸せになれないのヨ」





「なっ・・・!」





「決めたワ、アンタを殺してアタシが恵梨華を守ってあげる」





力強い眼光で葬儀屋を睨みつける。





その瞳に、嘘や偽りはなかった。





葬儀屋は静かに息を呑んだ。





「ま、待っておくれよ!小生は恵梨華の気配がどこにあるかちゃんと分かってるよ!」





「フーン・・・それで?」





「今だってこうして恵梨華の気配を・・・!」





突然驚いたような顔をする葬儀屋。





グレルは訳が分からない様子でその唸るデスサイズを止めた。





「ナニよ、なんかあったの?」





不機嫌そうな声で葬儀屋に話しかけた。
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