連載夢小説T

□小さなお客さんZ
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甘いムードの二人だったが、ふと気付くと周りには沢山の死神達が倒れていた。





「何よ・・・この死神たちは・・・」





「ああ・・・幻影の森に養分を取られていた死神達だよ」





「へぇ・・・」





すっかり傷口が塞がった恵梨華は立ち上がるとスタスタと倒れている死神の一人に近づいた。





「大丈夫かしら・・?ちゃんと生きてる?」





恵梨華がその死神の肩を軽く揺すると、その死神が目を覚ました。





「アラン・・・?アランはどこ・・・?」





虚ろな瞳で辺りをキョロキョロとするその女死神。





その瞳に生気は感じられなかった。





「な、何言ってるのよ・・・」





死人みたいなその瞳に、恵梨華は気持ち悪ささえ感じられた。





「アラン・・・アランをどこにやったのです・・・!」





突然愛しい人の幻が居なくなってしまい混乱した女死神は、おもむろに恵梨華の服を掴んだ。





「な、何よ・・・!離しなさいよ!」





抵抗も虚しく、女死神は恵梨華の服を離そうとしなかった。





幻影の森によって作り出された幻と何百年という時を過ごしてきた死神達。





そんな彼らにとって森は麻薬みたいな存在だった。





「アランを・・・返してください!」





掴んでいた服を引っ張ると恵梨華の首を両手で掴んだ。





そんな様子を見ていた葬儀屋は慌てて恵梨華のもとに駆け寄った。





そして掴みかかっている死神の手をパチンッと払った。





「お止め!・・・幻影の森はもう消滅したんだ」





「そん・・・な・・・」





女死神は力なくその場に座り込んだ。





その瞳からは止め処なく涙が溢れ出した。





「私はあの人がいなければ・・・生きていけません・・・」





弱々しく震える声で呟く。





そんな死神の様子を見ていた恵梨華が大袈裟にため息をついた。





「はぁ・・・情けないわね」





「え・・・?」





「所詮相手は幻なんでしょう?いつまでも惨めに引きずってるんじゃないわよ」





「でも・・・でも私は・・・」





女死神は悲しそうに俯いた。





ポタポタと零れる涙が地面を濡らしていく。





少し哀れに思った恵梨華は、おもむろに葬儀屋の前髪を持ち上げた。





「ちょっとアナタ、コレを見なさい」





「っ・・・・・!」





顔を上げた女死神は葬儀屋のあまりの美しさに言葉を失っていた。





頬が段々と赤くなっていく。





恵梨華はそんな様子に満足そうな笑みを浮かべた。





「アラン・・だったかしら?そんな男よりこっちの方がいいと思わない?」





「・・・・か、かっこいい・・・」





二人のやり取りを聞いている葬儀屋は、苦笑いをするしかなかった。





「世の中には沢山の死神がいるんじゃなくて?きっとアランよりもいい男がいるわよ」





「そう・・・ですね・・・」





未だに葬儀屋に見惚れている女死神。





その瞳は恋する乙女の瞳。





少しカチンときた恵梨華は、釘を刺すように言った。





「ちなみに”コレ”は私の物よ。アナタにはあげないわ」





スッと前髪を下ろすと、見せ付けるように抱きしめた。





すると恵梨華の腕の中から不気味な笑い声が聞こえてきた。





「ヒ〜ッヒッヒ・・まさか恵梨華から抱きしめてくれるなんてねェ〜?」





その言葉にハッと我に返った恵梨華は、慌てて葬儀屋を放した。





「か、勘違いしない欲しいわ!べ、別にアナタなんかいらないもの」





「・・・本当にいらないのかい?」





恵梨華を見つめながら不思議そうに唇に指を当てる葬儀屋。





「ええ。いらないわよ?」





フイッとそっぽを向く恵梨華。





すると後ろから喜びの声が聞こえてきた。





「なら私とお付き合いして頂けませんか!?」





女死神の声だった。





とても先程まで死人のような目をしていたとは思えないほどの豹変っぷり。





恵梨華が慌てて振り返ると、女死神は葬儀屋の手をしっかりと握っていた。
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