連載夢小説T

□小さなお客さん[
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「ふぅ・・・やっぱりここが一番落ち着くわね」





死神界から帰ってきた恵梨華は店に着くと大きく深呼吸をした。





「ヒッヒッヒ・・・そうかい?ま、小生たちにとってここは愛の巣みたいなものだからねェ〜?ぐふっ」





「き、気持ち悪い事言わないでよね!」





カァッと頬を赤らめ俯いてしまう恵梨華。





葬儀屋はそんな恵梨華を目を細めながら愛おしそうに見つめていた。





「ん〜・・?」





まるで恵梨華が天使のようにキラキラと輝いて見える。





葬儀屋は首を傾げながら人差し指を唇に当てた。





「・・・どうしたのよ?」





不思議に思った恵梨華は葬儀屋の方を見る。





恵梨華の顔を見た途端、葬儀屋の心臓が高鳴った。





窓から差し込んだ月明かりに照らされ、美しい少女がこちらを見ている。





「(ああ・・・こんなにも落ち着いて君を見たのは久しぶりだったね・・・)」





体温がどんどん上昇していく。





恵梨華にまでそのドキドキする心臓が聞こえないかハラハラしていた。





「そうだ・・・久しぶりに散歩にでも行かないかい?」





「戻ったばかりじゃない・・・」





恵梨華は少し疲れているのか、呆れたようにため息をついた。





しかしこのままでは心臓と理性が持たない葬儀屋。





何としてでも散歩に出かけるために、必死に脳をフル活動させていた。





「(どこか・・・恵梨華が喜びそうな場所・・・)」





困ったように考え込む葬儀屋を不審な眼差しで見る恵梨華。





「変な人ね。ほら・・・そろそろ寝るわよ?」





恵梨華が柩から腰をあげた。





「・・・墓地」





葬儀屋は何か思いついたようにボソリと呟いた。





「そうだ、恵梨華。墓地に行こうよ」





「夜の墓地・・・悪くないわね。いいわ、行きましょう」





恵梨華はニヤリと笑った。





そんな笑顔に胸が締め付けられるような感覚。





「(ああ・・・小生は一体どうしてしまったんだろうねぇ〜・・?)」





それはまるで恋する乙女のよう。





いつも恵梨華と一緒に居たはずなのに、何もかもが初々しく感じてしまう。





「ヒッヒッヒ・・・さあ?お姫様?」





動揺を悟られないように必死に平静を装う葬儀屋。





恵梨華の前に跪き、その肩に恵梨華を乗せた。





「フフッ・・・こうやって散歩するのも久しぶりね」





うっとりとした表情で月を見つめる恵梨華。





その輝きに魅了されてしまったのか、見上げるその瞳は虚ろな瞳だった。





暫く歩いていると、目的地である墓地が見えてきた。





「恵梨華〜?ほら・・・着いたよ」





葬儀屋の声でハッと我に返る恵梨華。





「あ、あぁ、そうね。早く降ろして頂戴?」





ストッと着地すると、二人はゆっくりと歩き始めた。





「いい雰囲気・・・落ち着くわ・・・」





普通の人からすれば不気味な雰囲気である。





しかし恵梨華と葬儀屋の感覚は少しずれていた。





「ヒッヒ・・・そうだねェ〜?何か動き出してくれたらも〜っと面白いんだけどね」





「クスッ・・・蘇った死者は私たちを見てなんて言うかしらね」





「彼らからしたら・・・小生も君も・・・死神にしか見えないだろうねぇ?」





「いい響きだわ・・・アナタと同じ死神なんて・・・」





手を頬にあて、少し恥ずかしそうに視線をそらす恵梨華。





そんな恵梨華にドキッとして葬儀屋も思わず視線をそらした。





「(これじゃあまるで子供じゃないか・・)」





恵梨華の些細な行動でドキドキしてしまっている自分が情けなくなってくる。





葬儀屋は自分の胸に手をあて恵梨華に聞こえないように深呼吸をした。





「ねぇ、アンダーテイカー。あの階段は何かしら?」





ふと不思議な階段を見つけた恵梨華は葬儀屋に声をかけた。





「ん〜?どれどれ・・・おー?こんなトコに階段なんてあったかねェ〜?」





「行ってみましょうよ!」





目をキラキラと輝かせながら葬儀屋のコートを引っ張る恵梨華。
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