超短編夢小説U

□仕事の待ち時間
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「さ、寒い・・・!」





両手に白い息を吹きかけ、ガチガチと震える恵梨華。





「ん〜?そーかい?」





そんな恵梨華の隣で平気そうにしている葬儀屋。





自分がこんなにも寒い思いをしているのに、隣で平気そうにしている彼にイラつきを覚える。





恵梨華はピクリと眉を動かした。





「・・・なんでテイカーはそんなに平気そうな顔してるの?」





「さあ〜?どうしてだろうねぇ〜?」





楽しそうにニヤニヤしている葬儀屋。





恵梨華は無性に意地悪をしたくなった。





おもむろにそのコートを掴むと、ボタンに手をかけた。





そんな大胆な行動に、葬儀屋は頬を赤らめた。





「恵梨華・・・!?お、お止めよ・・・仮にもここは外だよ・・・?」





と言いつつも興奮している様子の葬儀屋。





抵抗する様子もなく、むしろ喜んでいるようだった。





「ハァ・・・ハァ・・・恵梨華・・・小生はいつでもどこでも君を・・・ッ!」





「さ、盛らないでよ!」





やけに顔を近づけてくる葬儀屋の頭をグイグイと押し返す恵梨華。





「誘ってきたのは・・・恵梨華だろう?・・・ほら・・・ハァ・・・早くしておくれ・・・?」





熱い吐息をテンポよく吐き出す。





「や・・・誘ってないから!」





後ろに回された葬儀屋の腕を振り払おうとする恵梨華。





しかしどれだけもがこうとも葬儀屋の腕は恵梨華をしっかりと捕まえて放さなかった。





思うように意地悪できなかった事に腹を立てた恵梨華はおもわず声を荒げた。





「いいから脱げよ!このド変態!」





その時だった。





「あ、あの・・・葬儀屋さん達・・・?」





突然話しかけられる。





驚いた恵梨華は慌てて声のする方を振り返った。





そこには顔を真っ赤に染めた警察官が立っていた。





「お、お取り込み中の所失礼します。死体の引き上げが終わりましたので・・・」





最後の方は声が小さすぎて聞き取れない。





恵梨華の顔が一気に赤くなった。





「あ、いや・・・取り込み中ではないというか・・・誤解ですよ!?」





「じ、自分は何も見ておりませんので・・・!」





固く目を瞑りながら必死に声を出す警察官。





それだけ言うと恥ずかしさに耐えられなくなったのか、そのまま走り去ってしまった。





恵梨華は警察官の後ろ姿に必死に叫んだ。





「ご、誤解だってばー!」





その声はきっと警察官には届いていないだろう。





恵梨華はがっくりと肩を落とした。





そして未だに抱きついてきている葬儀屋をキッと睨みつける。





「テイカーのせいだからね」





「え〜?小生は何も悪くないだろ〜う?ヒッヒッ」





葬儀屋は全く気にしていないのか、むしろ楽しんでいる様子だった。





きっと警察官に見せ付けた事により、優越感に浸っているのだろう。





「それに・・・誤解じゃないだろう?ヒッヒ・・こんな外で小生を脱がせようとしていた事実は変わらないのだから」





恵梨華は拳をきつく握り締めていた。





その手がプルプルと震える。





そしてその拳で葬儀屋の頭をガッと殴った。





「お馬鹿!コートを貸して欲しかっただけだよ!」





恵梨華に殴られた葬儀屋は両手で恵梨華に殴られた場所を押さえていた。





少しは反省したのか確認するため、恵梨華はその顔を覗き込んだ。





「ッ・・・!」





うっとりとした表情の葬儀屋。





その顔を見た恵梨華は言葉を失ってしまった。





「あぁあ〜〜〜・・・いいよぉ・・・!君から与えられる痛みは極上の・・・イーッヒッヒッ!」





呆れた恵梨華は、スタスタと歩き出す。





それに気付いた葬儀屋は慌てて恵梨華のあとを追った。





「ど、どこに行くんだい・・・!?」





「仕事だよ!お馬鹿!」



-END-

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