超短編夢小説U

□パンの記念日
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店内に漂う香ばしい匂い。





恵梨華はその匂いに思わず顔をしかめた。





「はぁ・・・まさかとは思うけど・・・」





やる気無さそうに棺の上にゴロンと寝転ぶ恵梨華。





そんな時、ハイテンションの葬儀屋が奥から姿を現した。





「恵梨華、聞いておくれよ!小生特性の新作パンがようやく完成したよぉ〜!」





前髪を帽子の中に納めてエプロン姿。





キラキラと眩しい笑顔に、恵梨華は思わず目を細めた。





「ちょ、ちょっとアンダーテイカー!いきなり素顔で現れないでよ!」





恵梨華は頬を赤くしながら怒鳴り声を上げた。





葬儀屋は完成したであろうパンをカウンターの上に置くと、両手の人差し指をツンツンした。





「・・・そんな小生を化け物みたいに扱わなくてもいいだろう・・?」





拗ねてしまった葬儀屋は口を尖らせていた。





恵梨華は小さくため息をつくと、カウンターに置いてあるものを指差した。





「で・・・なんでパンなの?」





恵梨華が自分の作ったパンに興味を示してくれた事に喜ぶ葬儀屋。





いじけていた顔がパァッと明るくなっていった。





「今回のパンは小生の自信作だよ。ヒッヒッヒ〜、美味しいよぉ?」





パンを手に取ると、恵梨華に差し出した。





「食べてごらん?」





「うっ・・・」





パンが近づいてきた事によって、恵梨華は眉を寄せて嫌がった。





「・・・私がパン嫌いなの知っててやってる?」





「ヒヒッ、それは普通のパンだろ〜う?コレは小生が愛情をた〜っぷり込めて作った特別なモノなのさ」





「パンはパンだよ・・・」





恵梨華はため息をつきながら肩を落とした。





「じゃあ・・・小生が食べさせてあげるよ。ほら・・・あ〜ん?」





パンを一口サイズにちぎると、恵梨華の口元に持っていく葬儀屋。





しかし恵梨華は口を開けることなく、フイッと顔を背けた。





「やだよ・・・パンは所詮パンなんだってば・・・!」





しかし葬儀屋は諦めようとしなかった。





ヒョイッとまた恵梨華の口元へパンを近づける。





すると恵梨華は反対側の方を向いた。





何度も何度も繰り返される。





痺れを切らした葬儀屋は、おもむろに持っていたパンをぱくっと食べた。





手元からパンが無くなった事に安心した恵梨華はほっと一息ついた。





「そうそう。そうやって初めから自分で食べ・・・・・・ッ!」





それは一瞬の出来事だった。





恵梨華が安心して喋りかけた途端、葬儀屋の唇が重なっていた。





そして無理矢理唇を割って舌が進入してくる。





「んんッ・・・!」





それと同時に葬儀屋が口に含んでいたパンが恵梨華の口の中に押し込まれた。





葬儀屋はパンの味と恵梨華の味を楽しむかのように舌でパンを転がした。





恵梨華の口の中に、葬儀屋の味とパンの味が広がっていく。





そして葬儀屋は恵梨華の鼻を摘んだ。





「・・・・ッ・・・・・・ふ・・・・」





鼻をつままれた事により、呼吸が難しくなる。





―ゴクリッ・・





苦しくなった恵梨華は押し込まれたパンと葬儀屋の唾液を飲み込むしかなかった。





恵梨華が飲み込んだ事を確認すると、葬儀屋はニッと口角を上げて笑った。





そしてゆっくりと恵梨華の唇が解放された。





「ハァ・・・ハァ・・・」





恵梨華は苦しそうに呼吸を整えていた。





「ヒヒヒッ・・・どうだ〜い?小生特製のパンのお味は」





恵梨華は耳まで真っ赤にしながらギロリと葬儀屋を睨みつけた。





「ハァ・・・美味しいワケ・・・ないでしょ・・・!」





すると葬儀屋は怪しい笑みを浮かべた。





「なら・・・小生の味をも〜っと強くしてあげるからね。ヒッヒッヒ・・」





恵梨華の血の気がサーッと一気に引いていった。





後悔しても時既に遅し。





この後恵梨華は、本気になってしまった葬儀屋に嫌と言うほどパンを食べさせられてしまった。



-END-

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