超短編夢小説U

□女王のコイン
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―キィィ





何の前触れもなく突然扉がゆっくり開いていく。





シエルの書類を書く手がピタリと止まった。





「・・・僕の部屋にノックもなしに入るなんて・・・随分失礼な客だな」





扉の向こうにいるであろう人物に声をかける。





その姿はまだ確認できていない。





「僕を誘拐しにでも来たのか?」





挑発的な笑みを浮かべるシエル。





しかし、扉の向こうから聞こえてきた声はシエルの知っている声だった。





「ヒッヒッヒ・・・小生はそんなコトしないよぉ〜?」





長くて艶やかな銀色をなびかせながら、葬儀屋がシエルの部屋に入ってきた。





シエルは思わず立ち上がった。





「ア、アンダーテイカー・・!」





「やあ〜、伯爵。ヒッヒッ」





葬儀屋はズカズカと部屋に入ると、シエルの机の上に腰掛けた。





「しかし・・・伯爵のうちは随分と無用心だねェ〜?もし小生が殺し屋だったらどうしていたんだ〜い?」





「っ・・・!セバスチャンは一体何をやっているんだ・・!」





ドンッと机を叩きつけ怒りを露わにするシエル。





葬儀屋はそんなシエルの姿を面白そうに眺めていた。





「それより伯爵、小生は遊びに来たワケじゃあないよ」





「・・・用件はなんだ?」





「ヒッヒ・・・そろそろ伯爵が困っている頃だと思ってね〜?」





シエルは黙り込むと、静かに椅子に座った。





「珍しいな、お前の方からわざわざ出向いてくるなんて」





「ぐふっ・・今回は重要な情報を特別に教えてあげるよ」





葬儀屋はシエルの方を見るとニタリと不気味な笑みを浮かべた。





「ただし・・・報酬はいつもより沢山貰うけどね。ヒヒヒッ」





「・・・・・」





シエルの血の気がサーッと引いていく。





しかし今回の事件の情報は喉から手が出るほど欲しい。





シエルは諦めてセバスチャンを呼ぼうとベルに手を伸ばした。





葬儀屋はそんなシエルの手をパッと掴んだ。





「おっと。今回は執事くんを呼ばなくていいよ」





シエルは眉をピクリと動かした。





「・・・僕にやれと言うのか?」





「ぐふふ・・今回の報酬は笑いじゃなく・・・女王のコインさ」





「なっ・・・!」





葬儀屋から出た意外な言葉にシエルは目を見開いて驚いた。





それもそのはず、普段の葬儀屋はお金などに興味はない。





しかし今回彼が要求してきたのはお金だ。





これが驚かずにはいられない。





「ヒッヒ・・そ〜んなに驚くコトかなぁ〜〜〜?」





「あ、当たり前だ・・!お前が笑い以外の報酬を求めてくるなんてな・・・」





シエルは珍しいものでも見るかのような目で葬儀屋を見ていた。





「・・・それで、いくら欲しいんだ?」





すると葬儀屋はストッと机の上から降りるとシエルにそっと耳打ちをした。





「っ・・・・!」





葬儀屋の口から告げられたあまりに高額な値段にシエルは少したじろいだ。





「そんな金・・・一体何に使うんだ?」





「ヒヒヒッ・・内緒。―と言いたいトコだけど、特別に教えてあげるよ」





葬儀屋は再びシエルの机の上に腰掛けた。





「もうすぐ恵梨華の誕生日なんだ。それでプレゼントをあげようと思ってねェ〜?」





「・・・誕生日プレゼントにしては高額過ぎないか?」





「ヒッヒッヒ・・恵梨華に似合ういいモノを見つけてしまってねぇ?・・・それで、どうするんだ〜い?」





シエルは小さなため息をつきながら背もたれにもたれかかった。





「金額に見合った情報なんだろうな?」





「小生のお墨付きだよ。ヒッヒ・・・これでも安いくらいなんだけどね〜」





シエルは暫く考えると、葬儀屋の方を向いた。





「分かった、買ってやろう」





「伯爵ならそう言ってくれると思っていたよ。・・・報酬は今日中に用意してくれるか〜い?」





「今日中・・・だと・・?いくら僕でもそんな大金をきょ・・ッ」





言いかけるシエルの唇に人差し指をそっと当てる葬儀屋。





「出来るだろう?”悪の貴族”ファントムハイヴ伯爵」





「・・・わかった、何とかしよう」





それを聞くと葬儀屋は満足そうな笑みを浮かべた。





「それじゃ、小生は帰らせてもらうよ」





上機嫌の葬儀屋は、スキップをしながら帰っていった。



-END-

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