超短編夢小説U

□死神に恋した私
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舞い散る鮮血。





身の丈よりも大きな鎌が人間の心臓に突き刺さっている。





腰よりも長い銀色の髪が宙を舞い、それを際立たせる漆黒の衣服。





真っ白な肌を汚す真っ赤な返り血。





私はその異様とも思える光景に魅入られていた。





「ヒッヒッヒ・・これで全部終わりだね。・・・ん〜?そこにいるのは誰だい?」





宝石のように輝きを放つ美しい黄緑色の瞳がこちらを見ている。





私は動く事も喋る事も出来ない人形のようにその場に立ち尽くしていた。





男は固まってしまった私にゆっくりと近づいてくる。





歩くたびに揺れる銀色が、ゾクゾクと興奮を誘う。





「人間・・・だねェ〜?」





前かがみになり私の顔を覗きこむ。





色香のある甘い声にとろけてしまいそう。





私の頬は真っ赤に染まり、呼吸する事さえも忘れそうになる。





心臓が煩いくらいに高鳴っていた。





私は拳を握り締め、己を奮い立たせて声をかけた。





「あ・・・・あの・・・・・・貴方は一体・・?」





「ヒッヒ・・小生はアンダーテイカー・・・・・死神だよ」





―嗚呼、だから彼はこんなにも美しいのか。





神様に恋をしてしまった自分を嘲笑いながらも、もう誰も止める事は出来ない。





抑えきれない感情が一気に爆発していく。





「結婚してください」





私の口から飛び出した言葉はとんでもない言葉だった。





まだ名乗ってもいないのに。





好きだという事も伝えてもいないのに。





順序を飛ばしたありえない発言に、葬儀屋は暫く呆然としていた。





そしてその場にしゃがみ込むと、お腹を押さえ大爆笑し始めた。





「ギャーッハッハッハッハッハ!い・・・ヒッヒ・・・・いきなり・・・ヒヒヒッ」





私の発言が笑いのツボに入ってしまったようだ。





喋る事もままならなず、ひたすら笑い続ける。





苦しそうに呼吸を乱し、その綺麗な瞳から透明な涙を流している。





口端から零れ落ちた唾液すら美しいと思えてしまう自分が怖い。





末期なのだろうか。





しかし、自分の気持ちに嘘をつく事は出来ない。





欲しい、どうしてもこの美しい彼が欲しい。





例え人間だろうと死神だろうと悪魔だろうと、種族なんて関係ない。





私は葬儀屋に恋してしまったのだから。





「結婚しなくてもいいから・・・一生私の傍に居てください」





「アッハッハッハ!・・・ぐふっ・・君、面白い子だね」





一頻り笑い終えた葬儀屋がおもむろに立ち上がった。





このままどこかに行ってしまうのではないだろうか。





不安になった私は無意識のうちに葬儀屋のコートを掴んでいた。





「ひ、暇つぶしでもいいから・・・アンダーテイカーさんは死神なんでしょ?死なないんでしょ?」





「まぁ・・・死なないねェ?」





「私の一生なんて・・・たかが数十年だよ?だから・・・ね・・?」





離したくない。





私は震える手で必死にコートを握り締めていた。





すると葬儀屋はコートを掴んでいる私の手を握り締めた。





「君・・・名前は?」





「恵梨華・・・・恵梨華です・・!」





気がおかしくなりそうだった。





ひんやりと冷たい手がしっかりと私の手を握り締めている。





身体中の全神経が手に集中する。





「恵梨華ねぇ〜?ヒッヒ・・・いいよぉ?丁度魂を狩るのに飽きてしまっていたトコさ」





「ほ、本当・・・ですか・・・!?」





「それにしても・・・ヒッヒッヒ・・死神に傍に居て欲しいだなんて・・・ブフフッ」





相当面白いのか、葬儀屋はまた笑い出してしまった。





しかし突然手を引っ張られると、私は葬儀屋の胸の中に引き寄せられた。





さらさらと銀色の髪が私の頬を撫で、くすぐったい。





突然どうしたのかと思い、上を向いた途端、唇に柔らかいものが押し当てられた。





葬儀屋の唇だった。





私は驚きのあまり、目を大きく見開いていた。





天使のように長い銀色のまつ毛が伏せられている。





私はこれほどまでに美しい光景を見た事がなかった。





そして名残惜しそうにゆっくりと唇が離れていく。





「誓いの口付け・・・ヒッヒ・・・これで君は・・・小生のモノだよ」





―嗚呼、私の最期は彼の手で・・・。



-END-

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