連載夢小説U

□魂より大切なものT
1ページ/4ページ

長い銀色の髪。





その上に乗っかる布カバーのかかった黒い帽子。





袖口が特徴的な葬列の付き人用コート。





その隙間から見える神父服。





首には長い数珠のようなネックレスを二連で巻く。





長い爪を黒く塗り、人差し指には大きな指輪、そして顔には傷。





「あぁ・・・完璧だよ、アンダーテイカー・・・」





一人、部屋でコスプレを楽しんでいる恵梨華。





全身鏡に映し出された自分の姿を見てうっとりとした表情を浮かべていた。





写真を何枚か撮り終え、一息つこうと台所へ向かった。





ビーカーに紅茶を入れ、骨壷のような形のビンから骨型クッキーを取り出した。





「はぁ・・・こんなに好きなのに・・・なんで会えないのかなぁ・・」





クッキーを頬張りながら不貞腐れたような表情。





ツーッと涙が頬を伝った。





長い前髪のせいで見えにくい視界が更に歪んでいく。





―その時だった。





突然明かりが消え、昼間だというのに部屋は暗闇に包まれた。





「え・・・何・・?」





高鳴る鼓動。





寒気にも似た嫌な感じが恵梨華を襲った。





カタカタと震える手で、生暖かいビーカーを握り締める。





すると、どこからともなく声が聞こえてくる。





”会いたいのか?”





誰かに見られているような感覚。





恵梨華はきょろきょろと辺りを見回した。





しかし、いるはずの声の主はどこにも見当たらない。





「だ、誰・・!?」





恵梨華の額からポタリと冷や汗が流れた。





”会いたいのか?その男に”





地を這うような低い声。





―嗚呼、これは悪魔の声なんだ。





恵梨華は拳を握り締め、覚悟を決めたように見えない声の主に話しかけた。





「会いたい・・・アンダーテイカーに会いたい・・・彼に会えるならどんな事でもするよ・・!」





震える体を押さえ、必死に声を絞り出す。





”よかろう・・・ならば代償としてその魂、頂いて行くぞ”





恵梨華はその言葉を聞いた途端、意識を失った。



























恵梨華が目を覚ますと見慣れない道端に倒れていた。





「あれ・・?私は一体・・・?」





ぼーっとする頭で必死に考えようとする。





格好は葬儀屋のコスプレのまま。





悪い夢でも見ているのではないかと自分の頬っぺたをつねってみた。





「痛ぅ・・!うーん・・・夢では無さそうだけど・・・」





とりあえず恵梨華は街の方へと歩き出した。





街へ来ると、すぐにその異変に気が付いた。





「え・・・?」





すれ違う人々の格好に驚いていた。





「これじゃあまるで黒執事の世界・・・」





恵梨華の頭が覚醒していく。





「そうだ・・・あの時悪魔と・・!ってことは・・・アンダーテイカー!」





状況を把握した恵梨華は、ガッツポーズをしていた。





こみ上げる喜び。





念願の黒執事の世界に来る事が出来たのだから。





真っ先に思い浮かぶ愛しい彼の姿。





早く会いたい、その気持ちで恵梨華の胸はいっぱいになった。





しかし恵梨華は葬儀屋の店の場所を知らなかった。





「うーん・・・どうしたものかなぁ・・・」





すると遠くから馬車の音が聞こえてくる。





耳を澄ましてみると、聞き覚えのあるあの声が。





そう、シエル・ファントムハイヴ伯爵の声だ。





しかし、辺りを見回してもどこにも馬車は見当たらない。





仕方なく恵梨華はシエルの声のする方へと歩いていった。





暫く歩いていると、ようやく馬車が見えてきた。





ここで恵梨華に小さな疑問が浮かんだ。





「(こんな遠くの声や音が聞こえた・・?)」





しかし今はそんな事を考えている場合ではない。





恵梨華は馬車を止めるために馬車の目の前に立って両手を広げた。





馬を操っていたセバスチャンが馬車を止めてくれる。





そして馬車の中から小さな伯爵が現れた。





「・・・何事だ?」





「申し訳ありません坊ちゃん。突然目の前に人影が現れましたので・・・」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ