短編夢小説V

□伝説の死神の涙
1ページ/2ページ

「は、伯爵の家にお泊りだって!?」





静かだった店に葬儀屋の声が響いた。





葬儀屋の意外な反応に恵梨華は目を見開いて驚いていた。





「そ、そんなに驚く事じゃないでしょ・・?」





「だって・・・伯爵のトコにはあの執事クンがいるんだよ?」





葬儀屋は慌てて恵梨華の手を握った。





「君に万が一のコトがあったら・・・小生は・・・」





「テイカーは心配しすぎだよ・・・いくら現役を引退したからって私は一応死神だよ?」





「と・・・とにかく・・・駄目なモノは駄目だよ!」





葬儀屋は拗ねたようにフイッと顔を背けた。





恵梨華はそんな葬儀屋の態度に、眉をピクリと動かした。





「・・・私がどこで何しようと、私の勝手でしょ?」





「どうして伯爵のトコに泊まりたいんだい?別にずっとここにいればいいだろう?」





「シエルが招待してくれたんだよ?断るのは可哀相だし・・・」





すると葬儀屋は突然恵梨華の両肩をガシッと掴んだ。





「恵梨華はあんな子供が趣味だったのかい!?」





「なっ・・・・!」





あいた口が塞がらなかった。





「そんな訳ないでしょう!?どうしてすぐそうやって疑うの!?」





「・・・伯爵じゃないなら・・・執事クンが目当てかい?」





掴んでいた肩を離すと葬儀屋はカウンターの上に腰掛けた。





「君も知っているだろう?彼は悪魔なんだよ?小生たち死神が忌み嫌う害獣だよ・・・」





「いい加減にしてよ!」





恵梨華の怒鳴り声が響く。





葬儀屋はその声に驚き、肩をビクリと震わせた。





「もういい!アンダーテイカーなんか・・・もう知らない!」





恵梨華は葬儀屋をキッと睨みつけると、そのまま店をあとにした。





一人残された葬儀屋は、暫くの間、恵梨華が出て行った扉を見ていた。





「(小生は悪くないよ・・・悪いのは恵梨華なんだ・・・)」





葬儀屋はカウンターから飛び降りると、落ち着かない様子で台所へと向かった。





「そうだよ・・・伯爵のトコへお泊りに行くだなんて・・・」





ボソボソと呟きながら、クッキーを作る葬儀屋。





しかしいつの間にか作業をした手は止まってしまっていた。





「・・・・・少し言い過ぎたのかな・・・」





葬儀屋はクッキーを作るのを諦め、再び店の方へと顔を出した。





勿論、そこには愛しい恋人の姿はない。





葬儀屋は深いため息をつきながら、カウンターの椅子に腰掛けた。





「(恵梨華・・・まだ怒っているのかな・・・)」





だらしなくカウンターにうな垂れる。





そして壁にかかっている時計の方に視線を移した。





恵梨華が出て行って1時間ぐらいが経過していた。





「・・・遅いねェ・・・・・どこまで行ってしまったんだろう・・・」





コンコン、と爪で机を突付きながら、恵梨華の事を待つ葬儀屋。





しかし葬儀屋の期待も虚しく、恵梨華は一向に帰ってこなかった。





「(べ、別に小生は悪くないよ・・・悪いのは恵梨華なんだからね・・・)」





必死に自分に言い聞かせる葬儀屋。





時間だけが虚しく過ぎていった。





そして恵梨華が出て行ってから2時間が経過しようとしていた。





「まさか・・・恵梨華に何かあったんじゃ・・・!?」





我慢出来なくなった葬儀屋はバッと立ち上がると、そのまま店を飛び出した。





「(恵梨華の気配・・・恵梨華の気配・・・ああ、駄目だ・・・気配を消してる・・・)」





屋根から屋根へと飛び移りながら必死に恵梨華を探す葬儀屋。





その表情にいつもの余裕はなかった。





「(恵梨華・・・恵梨華・・・無事でいておくれよ・・・!)」





その綺麗な瞳は焦りの色に染まっていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ