短編夢小説V
□サディストのプライドU
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「うっ・・・・・!」
ひんやりとした空気。
勿論、建物の中は昼間だというのに薄暗かった。
まだ入ったばかりだというのに、恵梨華の足取りはどんどん重くなっていった。
「ヒッヒッヒ・・・」
葬儀屋の不気味な笑い声にすら敏感に反応する恵梨華。
ビクッと身体を強張らせ、掴んでいた手を離した。
「も、もう・・・変な声出さないでよ・・・」
心臓に手を当てながらゆっくりと大きく呼吸し、荒くなってしまった呼吸を整える。
「ぐふっ・・・ほら、怖いなら小生を頼ってくれて構わないんだよ〜?ヒヒッ♪」
大袈裟に両手を広げ、極上の笑顔を浮かべる。
暗闇に生える優しい黄緑色の光。
恵梨華は抱きつきたい衝動に駆られるが、拳を握り締めぐっと堪えた。
「だ、誰が・・・怖いものですか・・!」
フイッと背を向け、再び歩みだす。
「ヒッヒッヒッ・・」
葬儀屋はそんな恵梨華を愛おしそうに眺めていた。
「(いつまで続くかなあ?その強がりは・・・ヒッヒッ)」
進むごとに展示されているお化けは気持ち悪さを増していく。
「ッ・・・・・」
人間という生き物は、見たくないものを見てしまうもの。
嫌悪感に眉を寄せながらも、ひとつひとつ丁寧に見てしまう。
心臓が、葬儀屋に聞こえてしまうのではないかというぐらい煩く鼓動していた。
「ああ・・・このお客さんなんて内臓の飛び散り方が美しいねェ〜」
恵梨華とは対照的に、葬儀屋はお化け屋敷を満喫していた。
「・・・・変人め」
つい本音を呟いてしまう恵梨華。
それを聞いた葬儀屋の口元が、不気味に歪んでいった。
「この美しさがわからないなんて・・・ヒッヒ・・・君もまだまだだねェ〜?」
「わかりたくもないよ・・・」
そんな会話をしていると、前を歩く恵梨華の目の前に、突然何かが降ってきた。
「ひッ・・・・!」
その場に尻餅をつく恵梨華。
「おー?突然上から降ってくるなんて・・・ぐふっ・・面白い仕掛けだね」
葬儀屋は人差し指を自分の唇に当てながら、まじまじとそれを観察した。
暫くすると、その仕掛けは上へと戻っていく。
「・・・ん?」
観察する事に夢中になっていた葬儀屋は、恵梨華が未だに座ったままだという事に今更気が付いた。
「どうしたんだい?恵梨華」
「な・・・・・なんでもない・・・・」
何でもないと言いつつも、一向にその場から動こうとしない恵梨華。
そう、動けないのだ。
びっくりしすぎたため、腰が抜けてしまい、立ち上がる事すら出来ない。
「ヒヒヒッ、そういうコトね」
葬儀屋はニィッと口角を上げると、ヒョイッと恵梨華をお姫様抱っこした。
「ッ・・・・!?な、何するの・・!?」
当然、葬儀屋に助けられるなど恵梨華のプライドが許さない。
葬儀屋の腕の中、じたばたと暴れて抵抗する恵梨華。
しかし、葬儀屋はそんな恵梨華に魔法の言葉を投げかけた。
「違うんだ・・・恵梨華がずっと手も繋いでくれなかったからねェ・・・」
「・・・え?」
葬儀屋の予想外の言葉に、恵梨華の動きはピタリと止まった。