短編夢小説V

□獣と化した葬儀屋T
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長い前髪。





身体のラインを出さないようなぶかぶかの服。





恵梨華はとても恥ずかしがり屋だった。





特に大好きな葬儀屋の前では、いつもに増して隠したがる。





「ねェ恵梨華・・・」





いつもより少し真面目な声だった。





恵梨華は不思議に思い、首を傾げた。





「どうしたの?アンダーテイカー」





「君と小生が付き合いだしてから・・・どれくらい経ったのかなぁ?」





「えぇっと・・・1年ちょっと・・・かな?」





恵梨華は自分の指を折り曲げ数えながら言った。





そんな恵梨華に、葬儀屋は大きなため息をついた。





「はぁ・・・・・・・1年も付き合っているのに・・・小生はまだ君の顔を見たコトがないよ・・」





少し拗ねたように口を尖らせる葬儀屋。





恵梨華は困ったように苦笑いを浮かべた。





「え・・・・・だ、だって・・・・私・・・・自信ないから・・」





恵梨華は俯いて、余計にその素顔を隠した。





「そんなに・・・・・小生が信じられないかい・・?」





ガックリと肩を落とし、盛大にため息をつく。





「そ、そういう訳じゃないけど・・・」





「・・・・・・だから見せてくれないんだろう?」





今度は両手で顔を覆い、おいおいと泣いたフリをする。





必死に泣き真似をしていた葬儀屋だったが、恵梨華が無反応な事に気が付いてチラリと隙間から覗いた。





「あ・・・・・・えと・・・・」





恵梨華は困惑した様子だった。





「(ああ・・・・泣き落とし作戦も失敗だね)」





葬儀屋は心の中で苦笑いすると、次の作戦を実行した。





「ねェ、恵梨華」





少し強引に恵梨華の手首を掴み引き寄せる。





「わっ・・・!」





突然の出来事に、恵梨華の身体はバランスを崩し、葬儀屋の胸の中にすぽっと納まった。





「見せておくれよ。小生に・・・」





葬儀屋は前髪をかきあげると、その綺麗な瞳でジッと恵梨華を見つめた。





―ゴクリッ・・・





恵梨華の生唾を飲む音が聞こえる。





恵梨華はまるでその瞳に魅入られたかのように、じっと見つめ返していた。





「言っただろう?これは死神である証・・・小生は君にしか素顔を見せないよ」





「私に・・・だけ・・?」





その特別な扱いに、恵梨華の鼓動は高鳴った。





「ヒッヒ・・・いくら前髪で隠そうと・・・顔が赤いのはバレバレなんだけどねェ〜?」





茶化すように恵梨華の頬を爪でツンと突付く。





真剣な表情と色香のある甘い声、ニッと笑いふざけたトーンの声。





そのギャップが堪らない。





「ねぇ・・・いいよね?」





再び真剣な表情で恵梨華を誘惑する。





こうなった葬儀屋から逃れられる術を知らない恵梨華は、恥ずかしそうに小さくコクリと頷いた。





葬儀屋は恵梨華の事を優しい眼差しで見つめると、その長い綺麗な指を恵梨華の頬に滑らせた。





「愛しているよ・・・恵梨華・・・」





ゆっくりと前髪が持ち上げられていく。





徐々に露わになっていく恵梨華の素顔。





恵梨華は少し緊張した面持ちで、硬く目を瞑っていた。





前髪を全て上げ終えると、葬儀屋は恵梨華の耳元に唇を寄せた。





「目を・・・開けてごらん?」





恵梨華は大きく深呼吸をし、覚悟を決め、ゆっくりと目を開いていった。





「ッ・・・・・?!///」





恵梨華の瞳に映っていたのは葬儀屋の驚いた顔だった。





慌てて葬儀屋の手を払い、両手で顔を隠す恵梨華。





「そ、そそそ、そんなに変だった・・・!?」





「い、いや・・・・」





葬儀屋は固まったままだった。





しばしの沈黙。





それを打ち破ったのは葬儀屋だった。





葬儀屋はうっとりとした表情をすると、恵梨華の顎を持ち上げた。





「君がこんなに美しかったなんて・・・小生驚いちゃったよ」





「えっ・・・?」
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