超短編夢小説V

□失恋の特効薬
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「ただい・・・・ま・・・」





玄関を開け、ボソリと呟く恵梨華。





今にも消えそうなその声は誰に届く訳でもなく静かに部屋へと消えていった。





―ドサッ





恵梨華は適当に鞄を放り捨てると、電気をつける事もなくそのまま自室へと歩いていった。





「はぁ・・・」





零れるのはため息ばかり。





真っ暗な部屋にたどり着くと、恵梨華はそのままベッドへと倒れこんだ。





”別れて欲しい”





先程言われたばかりの言葉が脳内をぐるぐる駆け巡る。





「愛してるって・・・・・・言ってくれたのに・・・」





大粒の涙が枕を濡らしていく。





「ずっと一緒にいようって・・・言ってくれたのに・・・・」





部屋の静寂に耐え切れないのか、恵梨華はボソボソと独り言を呟いていく。





「大事にするって・・・・言ってくれたのに・・・・」





―ポタッ・・・・ポタッ・・・





無音の部屋に響きだしたのは雨音。





それは恵梨華の心情を表すかのように、どんどん強くなっていく。





「雨・・・降ってきちゃった・・・」





雨音に気付いた恵梨華。





しかし今の恵梨華に起き上がる気力など残されていなかった。





「はぁ・・・・・・もう・・・死んじゃおうかな・・・」





自虐的に笑うその微笑みは、どこまでも痛々しいものだった。





―ひゅぅぅ・・・





突然、冷たい風が部屋に吹き込んできた。





風になびくカーテンがゆらゆらと揺れている。





「え・・・?」





不思議に思った恵梨華は、重たい身体をゆっくりと起こした。





「ヒッヒッヒ・・・魂は一人ひとつ・・・大事におしよ?」





恵梨華が見つめる先には一人の男が立っていた。





「だ、誰・・・?」





長い銀色の髪が美しい。





真っ黒の衣服がその美しさを際立たせている。





更にその銀色の隙間からチラリと覗かせる黄緑色。





恵梨華は呼吸するのを忘れてしまいそうなくらいだった。





「小生かい?ヒッヒッ」





独特のテノールボイスが恵梨華の心をときめかせる。





ニヤリと妖艶に微笑むその姿に、恵梨華は心奪われていた。





「小生はねぇ・・・死神だよォ?」





その黄緑色の燐光が、その言葉が真実だと語っていた。





「あぁ・・・死神さんね。・・・死にたいって言ったから迎えに来てくれたの?クスッ」





真っ赤に腫れた瞳を細め、クスクスと笑う恵梨華。





そんな恵梨華を見た途端、男は悲しそうに眉を寄せた。





「そんな風に言うもんじゃあない・・・」





次の瞬間、恵梨華はぬくもりに包まれていた。





「っ・・・・!?」





突然の出来事に、恵梨華は身動き一つ取る事ができない。





男は満足そうにニヤリと口角を上げると、その唇をそっと恵梨華の耳元に寄せた。





「寂しかったんだろう?」





耳にかかる熱い吐息と色香のある声。





「苦しかったんだろう?」





まるで全てを見透かしているかのように語りかける。





「・・・・ぅ・・・・・」





止まっていた涙が再び零れ始める。





すると男は恵梨華の涙をその唇で拭った。





「大丈夫・・・小生がね、忘れさせてあげるよ・・」





ふわりと微笑む優しい笑み。





恵梨華は無意識のうちにその唇に自分の唇を押し当てていた。





「・・んっ・・・・」





柔らかい感触。





その口付けは徐々に深いものへと変わっていった。





そしてゆっくりと唇が離れると、二人を透明な糸が繋いでいた。





「さあ・・・恵梨華?全てを忘れ小生と・・・甘美な夜を過ごそうか・・?」



-END-

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