超短編夢小説V

□無限ループの恐ろしさ
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「でねー、ヒロったらねー」





楽しそうに恋人の話をする君。





「でしょー?それでね・・・」





そんな姿は見たくない。





小生を愛してくれない恵梨華の姿なんて見たくない。





「あぁ!もうこんな時間!私夕飯の支度があるから。またねー」





友人に手を振る恵梨華。





耐え切れなくなった小生はその後姿を追っていた。





そして―。





「こ、来ないで・・・やめて・・ッ!」





暗い路地裏。





小生は恵梨華をここに追い詰めていた。





「・・・恵梨華がいけないんだ」





「な、なんで・・・・私の名前を・・・?」





怯える恵梨華を冷たく見下し、小生は振り上げていた死神の鎌を振り下ろした。





「ぁぁあああああッ!」





恵梨華の断末魔。





もうこれで何度聞いたか分からない。





小生は血に染まった死神の鎌をじっと見つめていた。





「また・・・小生じゃなかった・・・」





じわりと滲む涙。





小生は小さなため息をそこに残し、恵梨華を抱きかかえ店へと向かった。





「どうして・・・どうして君は小生を愛してくれないんだ・・・」





何度。何度君の魂を呼び戻しただろうか。





小生はこんなにも恵梨華を愛しているのに。





生き返った恵梨華が愛するのは他の男。





まるで小生を嘲笑うかのように、見せ付けるかのように。





君の笑顔は、小生の横をすり抜けていく。





どれだけ長い年月が経過しているのだろうか。





いつの間にか、恵梨華を殺すコトに何も感じなくなっていた。





小生を見てくれない恵梨華なんていらない。





小生を愛してくれない恵梨華なんていらない。





君が小生を愛してくれるまで、この作業は終わらない。終わらせない。





「ねぇ・・・恵梨華・・・?」





店についた小生は恵梨華を棺の上に降ろした。





「今度こそ・・・今度こそ小生を愛してくれるかい・・?」





血に汚れた髪をそっと撫でる。





気付けば小生の知っている恵梨華はいつも血まみれだった。





その綺麗な髪にべっとりと自らの血をつけて。





まるで太陽のような笑顔が小生に向けられるコトは無い。





小生は恵梨華の”ぬくもり”を感じたコトがなかった。





触れるコトが許される恵梨華はどれも冷たくて。





「恵梨華・・・」





小生に向けられた恵梨華の声など聞いたコトがない。





「ねぇ恵梨華・・・」





何度も何度も恵梨華に声をかける。





例えその耳に届いていなくても。その奥に住む魂に聞こえるように。





「愛しているよ・・・」





生きている時には決して許されない、恵梨華を独り占めにできる唯一の時間。





その冷たくなってしまった唇にそっと口付ける。





「小生はね・・・こんなにも君を愛しているんだよ・・?」





だからもうこんなコトの繰り返しはしたくない。





君の怯えた顔も見たくない、君の叫び声も聞きたくない。





小生はもう君を、殺したくない。





「お願い・・・お願いだよ・・・・・小生を・・・小生を・・・ッ!」





喉の辺りが苦しい。





声を出すのが苦しい。





呼吸をするのも苦しい。





恵梨華がいないコトが、手に入らないコトが、苦しい。





君の居ない世界を生きるコトが、苦しい。





心臓を握りつぶされてるような感覚がする。





これも小生が犯した罪への罰かもしれない。





あの日あの時、君を見つけ君に惹かれ君を愛し、そして―君を殺し。





今でも初めて恵梨華を殺した時のコトは覚えている。





あの時の記憶。何度忘れようとしても、生々しく蘇ってくる。





それはまるで呪いのように。





その記憶からどれだけ逃げようとも、小生の傍を決して離れない。





それはまるで君を追う小生のようで。





小生は震える手で恵梨華の冷たくなった手をぎゅっと握り締めた。





「今度生まれてくる時は・・・今度こそ・・・小生を愛しておくれ・・?」



-END-

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