超短編夢小説V

□彦星が穏やかでよかった
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「恵梨華〜?一体何をしているんだ〜い?ヒッヒッ」





いそいそと何かを準備している恵梨華に、葬儀屋は声をかけた。





「あぁ、今日は七夕なんだよ」





「ん〜・・?七夕・・・?聞いたコトがないね〜」





カサッと笹の葉が揺れる。





葬儀屋は聞きなれないその単語に、首を傾げた。





「七夕っていうのはね、こうして短冊に願い事を書いて笹に飾る日なの」





恵梨華は白紙の短冊をピラッと葬儀屋に見せた。





「願い事・・・・ねェ・・?」





葬儀屋の頭に、ある疑問が浮かび上がった。





「ねぇ、恵梨華?その願い事は一体誰が叶えてくれるんだい?」





すると恵梨華は、切ない表情で窓から空を見上げた。





「悲しい定めの恋人達・・・だよ」





その悲しげな瞳に、葬儀屋は恵梨華から目が離せなくなっていた。





「元々七夕はね、恋人同士である織姫と彦星が一年に一度、唯一会える日なの」





恵梨華は切なげに目を細めた。





「可哀相だよね・・・一年に一度しか好きな人に会えないなんて・・・」





苦しげに空を見上げるその姿はあまりにも痛々しくて。





気付けば葬儀屋は、そんな恵梨華をギュッと抱き寄せていた。





「えっ・・・?」





「大丈夫、小生はここにいるよ。だからそんな悲しい顔をするのはお止め・・?」





甘く優しい声。





ドキッと恵梨華の心臓は高鳴った。





「う、うん・・・」





恥ずかしいのか、恵梨華は顔を隠すように葬儀屋の胸に顔を埋めた。





「ヒッヒ・・・それにしても、その彦星クンは愛が足りないねェ〜?」





意外な言葉だった。





恵梨華は不思議に思い、パッと顔を上げた。





「え・・・?どうして?」





葬儀屋の細い指が、恵梨華の髪に絡められる。





「だってそうだろう?小生だったら・・・恵梨華が例え地獄の果てに居ようとも、追いかけるよ?」





「じ、地獄の果てって・・・」





戸惑う恵梨華の耳元に、葬儀屋はそっと唇を寄せた。





「追いかけて捕まえて・・・二度と離さない」





いつもとは違う、力強く低い声。





そんな葬儀屋の声にゾクッとしてしまう。





「ア、アンダーテイカー・・・?」





トンッと肩を押せば、葬儀屋は真っ直ぐな瞳で恵梨華を見つめてくる。





「定め?・・・そんなモノ、小生がこの手で壊してあげるよ」





ニィッと不気味に歪む口元。





葬儀屋は恵梨華の襟首を掴むと、自分の方へと引き寄せた。





「例え相手が誰であろうと、小生と恵梨華を引き離すヤツは許さない」





ギラギラと輝く黄緑色の瞳。





「恵梨華は誰にも渡さない・・・小生だけの愛しい恋人」





吐息がかかるような至近距離。





恵梨華の心臓は、違う意味で早くなっていた。





「あ、あの・・・アンダーテイカー・・?」





冷や汗を流しながら、震える声を搾り出す恵梨華。





すると、葬儀屋は何も言わずにそっと恵梨華の唇を奪った。





「・・・んっ・・・・・!」





恐怖と恥ずかしさで恵梨華の頭は混乱していた。





ただただ心臓の音だけが、恵梨華の耳に響いている。





唇が離れると、二人は気まずい空気に包まれていた。





恵梨華はこの状況を切り抜ける為に、葬儀屋に話題を振ってみた。





「ア、アンダーテイカーは・・・短冊にどんな願い事書くの?」





葬儀屋は恵梨華の心情を察したのか、クスリと微笑んだ。





「そうだなァ〜・・・困ったねェ、特に願い事が思いつかないよ」





「え・・・そうなの?」





不思議そうに首を傾げる恵梨華。





すると葬儀屋は、そんな恵梨華を再び抱きしめた。





「ヒヒッ、既に小生の願いは叶ってしまっているから・・・ね?」





「そ、それって・・・!」





カァッと顔が熱くなっていくのを感じる。





葬儀屋はそんな恵梨華の頭を、愛おしそうに撫でていた。





「君が居てくれれば・・・小生はもう何も望まないよ」



-END-

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