超短編夢小説V

□甘いの欲しい
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「甘いの欲しい」





それは何の前触れも無く、恵梨華は唐突にその言葉を呟いた。





「甘いの・・?ああ、それじゃあ小生特製のクッキーを食べるかい?」





カウンターに腰掛けていた葬儀屋。





懐から骨壷を取り出すと、恵梨華に見せ付けた。





いつもならそれだけで喜んで飛びつく恵梨華。





しかし今日の恵梨華は違っていた。





「違う・・・・そんなの全然甘くない」





―ガーーン!





葬儀屋の頭の中に鈍い音が響き渡った。





愛しい恋人に、自分の作ったクッキーを”そんなの”呼ばわりされる。





葬儀屋のショックは計り知れなかった。





「そ・・・・それじゃあ・・・・・一体・・・何を・・・」





ショックからか、声に生気が感じられない。





「ん・・・・もっと甘いの・・・」





恵梨華の心は空っぽだった。





恋人が落ち込んでいる事すら今は気付かない。





「はぁ・・・・」





深い溜め息を吐き、がっくりと肩を落とす恵梨華。





そんな姿を見ては、葬儀屋も落ち込んではいられなかった。





おもむろに立ち上がり、恵梨華の座る棺の上に移動する。





「クッキーよりも甘いモノ・・・ねェ・・?」





憂いを帯びた瞳で心配そうに恵梨華を見つめる葬儀屋。





相変わらず恵梨華は俯いたままだった。





「う〜ん・・・・困ったねェ〜・・・」





静まり返った店内が妙に気まずくて。





葬儀屋は声を出しながら悩んでいた。





「ああ、そうだ。伯爵のトコへ行こうか?」





いい案を思いついたと思ったのか、葬儀屋の声が少し明るくなる。





そして勢いよく立ち上がると、恵梨華の手を引いた。





しかし、恵梨華が立ち上がる事はなかった。





「違う・・・・」





ボソリと呟くと、恵梨華は勢いよく葬儀屋の手を引っ張った。





「ッ・・・・・!」





バランスを崩し、前かがみになった葬儀屋の後頭部を恵梨華が押さえつける。





そしておもむろに自らの唇を葬儀屋のものに重ねた。





「・・・んっ・・・・・!」





恵梨華の突然の大胆な行動に、葬儀屋は目を見開いていた。





驚く葬儀屋を尻目に、恵梨華は葬儀屋の唇の隙間から舌を進入させた。





ねっとりとその温かい口内を犯していく。





歯茎をなぞり、舌を舐め、上側の敏感な場所を摩る。





それはまるで葬儀屋の味を楽しむかのように。





「・・っふ・・・・・・・んんッ・・・」





初めは驚いて何もしていなかった葬儀屋だったが、次第にその快楽に溺れていく。





まるで恵梨華に応えるように、葬儀屋は自らの舌を恵梨華の舌に絡ませた。





「・・ンッ・・・・・・はぁ・・」





唇の隙間から零れ落ちる艶っぽい声に、恵梨華はどんどん興奮していく。





いつの間にか体勢は、恵梨華が葬儀屋を押し倒したような形になっていた。





恵梨華が薄っすらと目を開けると、夢中になって自分を求めている葬儀屋の姿。





そんな姿を見た途端、ゾクゾクとした快感が背筋を走った。





静かな店内に聞こえるのは二人の吐息とくちゅくちゅという厭らしい水音だけ。





一頻り葬儀屋を楽しむと、恵梨華は名残惜しそうに唇を離した。





「はぁ・・・・はぁ・・・」





乱れる呼吸と治まらない鼓動。





恵梨華は余韻を楽しむかのように、葬儀屋をじっと見下ろしていた。





そしてニヤリと口角を上げる。





「アンダーテイカーはすごく甘い味がするね」





まるで小悪魔のような笑みに、葬儀屋は見惚れてしまう。





しかしそれを悟られないように、すぐに平静を装った。





「ッ・・・・・・しょ、小生は恵梨華の方が甘いと思うよォ〜?」





そんな葬儀屋の心情を察したのか、恵梨華はクスリと笑った。





「今日は店仕舞いしようか?・・・キスの続き、したいでしょ?」





恵梨華の甘い誘惑に、葬儀屋が勝てる術などない。





「ヒッヒ・・・そうだね。甘い甘〜い・・・そう、極上の小生をプレゼントしてあげるよ」



-END-

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