短編夢小説T
□死神を虜にする死神
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「ウィリアム〜?今日もまた残業なのー?」
「恵梨華、口を動かす暇があったら手を動かしてください」
死神派遣協会は深刻な人員不足に悩まされていた。
例の如く、毎日毎日残業の日々だった。
「あァん☆ウィルったら冷たくしちゃって〜、ホントは恵梨華ちゃんの事が好きなくせに♪」
「っ・・・///グ、グレル・サトクリフ、また減給されたいのですか?」
「ンフッ、照れちゃって可愛いんだかラ☆」
「はぁー、疲れたなぁー」
街から街へ、魂を回収に向かう三人。
仕事が終わる頃には太陽が沈み、月が輝いていた。
恵梨華は疲れた様子でその場に寝転んだ。
「恵梨華、はしたないですよ」
そう言いながら恵梨華の隣に腰を下ろすウィリアム。
「ウィルばっかりずるいワ〜、アタシも混ぜなさいヨ☆」
恵梨華は静かに闇夜に浮かぶ月を見ていた。
ウィリアムとグレルはそんな恵梨華を見つめていた。
ふと恵梨華が言う。
「こんなに穏やかで平和なのにね・・・明日はロンドンで大量の魂の回収をしなきゃいけないんだね」
「羽虫がっ・・・!」
ウィリアムは唇を噛み締めた。
そんな雰囲気を察したのか、グレルは明るく振舞った。
「ま、考えても仕方ないじゃな〜い?明日に備えて早く帰りましょっ☆」
「フッ・・・そうですね」
こうして三人は死神界へと帰っていった。
次の日、恵梨華は真っ赤に燃え盛るロンドンを見て、呆然としていた。
そんな恵梨華の心情を察したのか、グレルがそっと恵梨華の肩を抱いた。
「んふっ☆そんな顔してないでさっさと片付けちゃいましょっ」
「うん・・・!そうだね」
大量の死体を前に、二人は無我夢中で狩っていた。
「あァん、狩っても狩っても狩ってもぉ〜・・」
降格したグレルの手にはハサミのようなデスサイズ。
恵梨華はそんな姿を見て苦笑いした。
「でも・・・すごい量だよね・・・」
二人がいそいそと作業を続けていると、裏路地から誰かが歩いてきた。
「ヒッヒッヒ・・・無駄な努力って言うのは若さの特権だねェ」
恵梨華とグレルは驚いたように声のする方へ振り向いた。
「なんなのヨ・・無駄な努力って」
一生懸命作業をしていたグレルが少し怒りを込めて言った。
一方恵梨華はと言うと、突然現れた男に一目惚れをしていた。
綺麗な銀色の髪、独特のテノールボイス、前髪の隙間から揺らめく黄緑色。
怪しい雰囲気をかもしながらその場に座り込む男。
「おやァ〜?見ない顔だねェ、君は?」
男に話しかけられ、ハッと我に返った恵梨華は慌てて自己紹介をした。
「あっ、は、初めまして、恵梨華と申します」
「ヒッヒッヒ・・・よろしく恵梨華、小生はアンダーテイカーさ」
平静を装っていたアンダーテイカーだったが、心は酷く乱れていた。
艶々とした美しい黒髪、瞳の色は自分と同じ黄緑色、そして死神の証でもある眼鏡がとても似合っていた。
恋に落ちた二人はグレルがいる事も忘れて甘い雰囲気で見つめ合っていた。
「ちょっと〜!アタシがいる事忘れないでヨ!」
慌ててグレルが二人の間に入った。
アンダーテイカーも我に返ったのか、先程の話の続きを始めた。
「あ、ああ・・・そうだったねェ、いいかい?この黒いモノは死者達の喜び苦しみ妬み・・そう、心ってやつさ」
「心・・・」
「ああそうだよ恵梨華、心がすっぽり抜け落ちた魂は・・・もはや魂とは呼べない」
「・・・」
「死神図書館には収める事が出来ないだろうねェ?」
「そんな・・・!」
「なにヨ、心が抜けたぐらいでっ・・・!」
グレルは信じられない様子で目の前に倒れている人間にデスサイズを突き立てた。
「げっ・・・何も映ってないじゃないっ」
「これも天使の仕業・・・なのかな・・・」
嫌な空気に包まれた。
するとそこへ・・・