短編夢小説T

□愛しい彼女を振り向かせろ
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「恵梨華〜」





カウンターに肘をつきながら、愛しい恋人の名前を呼ぶ。





しかし恵梨華の反応はなかった。





「こっちを見ておくれ?」





「・・・・・」





アンダーテイカーは恵梨華の隣に腰掛けた。





「そんなモノ読んでないで小生の相手をしておくれ?」





「んー・・・」





恵梨華は本に夢中だった。





特に今日はお気に入りの小説家の新作発売日。





朝一番に本屋さんへ行き、帰ってきてからずっと読みふけっていた。





朝から構ってもらえないアンダーテイカーは少し拗ねた様子だった。





「恵梨華?」





恵梨華の服の袖をくいくい引っ張ってみるアンダーテイカー。





しかし恵梨華の反応はやはり薄かった。





「ん・・・」





先程から”ん”の文字しか言わない恵梨華。





しりとりだったらボロ負けである。





そんな恵梨華に堪らなくなって、恵梨華の目の前に顔を覗かせた。





「ちょ・・・!アンダーテイカー・・・!」





突然視界にアンダーテイカーが入ってきて我に返った恵梨華。





「ヒッヒ・・・やっと小生の方を向いてくれたねェ」





「だーめっ!今すごくいいところなのっ!」





恵梨華はプイッと後ろを向いてまた読み始めてしまった。





ぷぅっと頬を膨らませるアンダーテイカー。





落ち込んだようにしゃがみこみ、地面をツンツン指で突っついた。





そしてチラリと恵梨華の様子を確認する。





しかし恵梨華は相変わらず本を読んだままだった。





「はぁ〜・・・」





大げさにため息をついた。





「うぅ・・・小生は悲しいよぉ・・・うぅ〜・・」





今度は泣いたフリをしてみる。





両手で目を覆い、わざとらしく肩を揺らした。





そしてまたチラリと恵梨華を見るアンダーテイカー。





相変わらず本を読んでいる恵梨華がそこにいた。





「(恵梨華が本よりも好きなモノ・・・何かないかねェ〜・・?)」





アンダーテイカーは何かを思いつき、楽しそうに鼻歌を歌いながら台所へと消えていった。





しばらくするとクッキーの香ばしい匂いが店内を包み込んだ。





「ヒッヒッヒ・・・恵梨華?小生特製のクッキーと紅茶だよぉ〜」





ジャーン!と大げさにビーカーと骨壷を恵梨華に見せ付けるアンダーテイカー。





いつもの恵梨華ならキラキラと目を輝かせてそれを見ていた。





が、しかし、今日はそんな反応が見られなかった。





「ん・・・後でいいよー」





ガーン・・・





アンダーテイカーのショックの音が聞こえたように感じた。





「小生が心を込めて作ったのにねェ・・・いらないのかい・・・?」





カラカラと骨壷に入ったクッキーを鳴らしながら言った。





しかし恵梨華の耳にその声が入る事はなかった。





アンダーテイカーは口をヘの字に曲げ、出来立てのクッキーをかじった。





「(小生のクッキーよりあんな本のがいいなんて・・・!)」





荒々しくクッキーを貪るアンダーテイカー。





そしてぬるい紅茶を一気に飲み干した。





そこでハッといい事を思いついたアンダーテイカー。





不気味な笑顔を浮かべながらアンダーテイカーは奥の部屋へと消えていった。





「恵梨華〜?」





先程と同じように恵梨華の顔を覗き込むアンダーテイカー。





しかし恵梨華の反応は今までとはまるで違っていた。





目を見開き、まるで魔法にかかってしまったかのようにアンダーテイカーを見ていた。
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