短編夢小説T
□鈍感なのは罪ですか?
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「あれ・・・クッキーの材料が切れちゃった」
恵梨華は冷蔵庫の中を覗きながら言った。
小さくため息をつくと、恵梨華は街へ出かける準備をした。
「それじゃあアンダーテイカー、ちょっとクッキーの材料を買いに行って来るね!」
恵梨華は仕事中のアンダーテイカーに声をかけ、出かけようとした。
するとアンダーテイカーは作業を中断し、慌てた様子で恵梨華に駆け寄った。
「それなら小生も一緒に行くよォ〜」
後ろから恵梨華を抱きしめた。
「仕事・・・まだ終わってないんでしょ?」
「小生は恵梨華と買い物に行きたいのさ」
「途中でやめたら”お客さん”が可哀相でしょ・・・」
「・・・恵梨華は小生と一緒に買い物したくないのかい?」
アンダーテイカーはその場にしゃがみ込み、袖で顔を覆ってわざとらしく泣いたフリをしている。
「はぁ・・・じゃあ一緒に行こうか・・・」
恵梨華は呆れた様子でアンダーテイカーを見た。
最近アンダーテイカーの様子がおかしかった。
以前はそんな事なかったのだが、シエルのお茶会に呼ばれた時も慌てた様子でついてくる。
買い物だって前は一人で行かせてくれたのに、今は必ずついてくる。
「(アンダーテイカー・・・どうしちゃったのかな・・・)」
恵梨華はそんなアンダーテイカーを少し心配していた。
「さあ、楽しい楽しい買い物に行こうねェ〜♪」
上機嫌なアンダーテイカーは鼻歌を歌いながら恵梨華の手を握っている。
「えーっと・・・これとこれとこれください」
恵梨華はメモを片手に、欲しいモノを店員に伝えた。
「はい、こちらでございますね」
店員は笑顔で恵梨華の言った物を手渡した。
「いつもありがとうございます」
丁寧にお辞儀をする店員。
恵梨華は軽く会釈すると、そのまま帰ろうとした。
しかしアンダーテイカーは恵梨華の手を握ったまま、動こうとしない。
不思議に思った恵梨華は、アンダーテイカーに声をかけた。
「アンダーテイカー?どうしたの?」
恵梨華がアンダーテイカーの顔を覗き込むが、アンダーテイカーは店員を見つめたままだった。
「あ、あの・・・どうかされましたか?」
店員は少し怯えた様子でアンダーテイカーに問いかけた。
アンダーテイカーはそんな店員をギロリと睨みつけた。
「この子は小生の恵梨華なんだ。君のモノにはならないよ?」
「なっ・・・!」
恵梨華の頬が赤く染まっていった。
「す、すみません!なんでもないんです!ほら!行くよ、アンダーテイカー!」
恵梨華は恥ずかしくなり、無理矢理アンダーテイカーを引きずってその場を去った。
その店が見えなくなったところで、荒々しくアンダーテイカーを離した。
「ちょっと!何であんな事言ったの?!」
「・・・・・・」
アンダーテイカーは口を尖らせ拗ねた様子で黙っていた。
「あんな恥ずかしい事するならもう一緒に買い物行かないよ!?」
恵梨華は眉を寄せながら怒鳴った。
すると黙っていたアンダーテイカーが、小さな声で呟いた。
「・・・あの子は恵梨華に気があるんだよ」
「はぁ?何言ってるの?」
「君に向けた笑顔が何よりの証拠さ」
「あんなの営業スマイルでしょ・・・」
「(恵梨華は気づいていないだけなんだよ・・・)」
アンダーテイカーは心の中で深い深いため息をついた。
「とにかく、もうあんな恥ずかしい事はやめてね」
「・・・わかったよ」
アンダーテイカーはしぶしぶ受け入れて恵梨華の手を握った。
帰り道、恵梨華とアンダーテイカーが歩いていると、小さな男の子が話しかけてきた。
「あ・・・葬儀屋さんだ!」
前にアンダーテイカーがこの子の父親の葬儀をしてあげたことがあった。
「おやおや・・・君は確か・・・」