短編夢小説T

□記憶喪失の死神
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「ヒッヒッヒッ・・・暇だねェ・・・」





今日は珍しく、お客さんが運ばれてくる事もない。





アンダーテイカーは柩に寝そべりながら、つまらなそうな表情を浮かべた。





「・・・こんな時は・・・笑いのネタでも仕入れに行こうかねェ・・・」





ぼりぼりと頭を掻くアンダーテイカー。





カウンターの上に無造作に置いてある帽子を取ると、ひょいっと頭の上に乗せた。





アンダーテイカーは街に来ていた。





ふらふらとやる気の無い足取り。





「(今日も・・・収穫は無さそうだ・・・)」





アンダーテイカーは深いため息をつきながら路地裏へと入っていった。





昼間でも薄暗い路地。





そこに一人の少女が倒れていた。





「おやぁ・・?こんな所に不釣合いな子が居るねェ〜」





真っ黒なスーツに身を包んだ少女。





体中傷だらけだった。





痛々しくその黒いスーツに赤黒い染みがある。





「ああ・・・まだ息がある・・・小生のお客さんではなさそうだ・・・」





アンダーテイカーは残念そうな表情を浮かべながら、おもむろにその少女を抱きかかえた。





「ヒッヒッヒッ・・・」





アンダーテイカーは少女を抱えたまま、店へと向かった。





その顔には、先程までのつまらなそうな表情は無く、ニヤニヤと笑っていた。





気まぐれなアンダーテイカーのちょっとした好奇心。





少女はそんなアンダーテイカーの好奇心によって救われた。





「さあ・・・これで怪我の方は大丈夫だねェ〜」





アンダーテイカーは慣れた手つきで手当てを終わらせた。





「それにしても・・・綺麗な子だね・・・」





改めて少女の顔をまじまじと見るアンダーテイカー。





白く透き通ったまるで人形のような肌。





唇は整った形の桃色。





長くさらさらとした黒髪。





アンダーテイカーは愛おしそうにその黒髪に指を通した。





「んっ・・・・・」





アンダーテイカーが黒髪を弄んでいると、少女の眉がピクリと動いた。





そしてゆっくりと目を開けた。





その瞳は黄緑色。





少女はアンダーテイカーと同じ死神だった。





「(おやおや・・・まさか死神を拾ってしまうとは・・・)」





アンダーテイカーは心の中で少し苦笑しながらも、少女のその美しい瞳に心奪われていた。





「あれ・・・」





ぼやけた視界の中、少女は辺りをキョロキョロと見回していた。





そして黒と銀色の人影を見つける。





「だぁれ・・・?」





「ヒッヒッヒッ・・・小生はアンダーテイカー。倒れていた君を拾ってあげたのさ」





「そぉなんだ・・・」





少女は興味が無さそうに答えた。





「ところで・・・君は?」





「わかんない・・・」





「じゃあ・・・どこから来たんだ〜い?」





「わかんない・・・」





アンダーテイカーが何を聞いても分からないと答える少女。





アンダーテイカーは困った様子で少女を見つめた。





よく見ると少女の胸ポケットが膨らんでいる。





「ん〜?ちょっとごめんよ?」





アンダーテイカーはそのポケットに手を入れた。





そして中から眼鏡が出てきた。





”恵梨華”





その眼鏡には恵梨華という文字が刻まれていた。





「君はどうやら恵梨華という名前らしいよォ〜?ヒッヒッ」





アンダーテイカーはその眼鏡を恵梨華に手渡した。





「見えないんだろう?死神は皆ド近眼だからねェ〜」





恵梨華はその言葉に首を傾げながら、受け取った眼鏡をかけた。





「しにがみ・・・?」





「ああ、そうさ。君のその黄緑色の燐光は間違いなく・・・死神である証拠だよォ〜?」





「そぉなんだ・・・あ、やっとみえた」





恵梨華は眼鏡をかけると、綺麗に見える視界に驚いた。





そしてアンダーテイカーの姿を改めて確認した。





「アンダーテイカー・・・きれいなぎんいろ・・・」





「ヒッヒッ・・君の黒髪も綺麗だよォ〜?」





「きず・・・あるよ?」





恵梨華はアンダーテイカーの顔の傷を指で触りながら言った。





「・・・昔の傷さ。もう痛くないから大丈夫だよ」





アンダーテイカーは恵梨華を撫でながら言った。
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