短編夢小説T

□その瞳に心奪われて
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「う・・・・ひっく・・・」





大好きな彼が事故にあった。





恵梨華はあまりの悲しさに、一晩中泣いていた。





枯れる声、滲む涙。





目は真っ赤に腫れ上がっていた。





そして今日は彼のお葬式。





恵梨華は真っ黒な服に身を包み、お葬式に参列した。





葬儀も終わり一人、また一人とその場を去ってゆく。





しかし恵梨華は動こうとしなかった。





彼のお墓の前で、力なくその場に座り込んだ。





カァ・・・カァ・・・





夕暮れ時、鴉が恵梨華を哀れむかのように鳴いていた。





「はぁ・・・」





涙は枯れ、恵梨華の頬には痛々しい涙痕が残っていた。





時間の流れが早く感じる。





あっという間に辺りは真っ暗になってしまった。





冷たい風が吹き荒れる。





しかし恵梨華はその場を動こうとしなかった。





寒さで体が震える。





そんな時だった。





「いつまでそこでそうしているんだい?」





後ろから声をかけられたと思った途端、温かいモノが恵梨華を包み込んだ。





よく見ると大きめの黒いコートが肩に掛けられていた。





恵梨華はゆっくりと後ろを振り向いた。





そこには神父服を着た男が立っていた。





「あ・・・ありがとうございます・・・」





恵梨華は掠れたような声しか出せなかった。





「彼がいなくなって悲しいのは分かるけど・・・そんな事をしていても、彼は喜ばないよ」





「あはは・・・分かってはいるんですけどね・・・」





恵梨華は力なく笑った。





その乾いた笑顔に男は辛そうに眉を寄せた。





「さあ・・・もうお帰り?このままでは君まで倒れてしまうよ」





「・・・そう・・・ですね・・・」





恵梨華は男の言う通り、帰ろうと立ち上がった。





しかし泣き疲れていたのだろう、思うように力が入らずその場に倒れてしまった。





「・・・大丈夫かい?」





恵梨華が地面に激突する事はなかった。





男が恵梨華を抱きとめてくれていたのだ。





「あ・・・はい・・・」





しかし、あまり大丈夫ではなかった。





足に全く力が入らない。





「ヒッヒッヒ・・・君は嘘が下手だねェ・・・?」





不気味な笑い声を出す男。





しかしその男の低音で落ち着きのある声音は、恵梨華の心を少し癒していた。





その時、一層強い風が二人に襲い掛かった。





男の綺麗な長い銀色の髪が風になびいた。





被っていた黒い帽子が地面に落ちる。





「え・・・?」





怪しく光る黄緑色。





綺麗で整った素顔が露わになった。





恵梨華はその美しい瞳から目を離すことが出来なかった。





見つめ合う二人。





まるでそこだけ時間が止まってしまったかのようだった。





「・・・・・どうしたんだい?」





男の言葉に恵梨華はハッとした。





「い、いえ・・・」





男はそんな恵梨華にニッと笑いかけた。





「小生はアンダーテイカー、ロンドンで葬儀屋をしているんだ。・・・君の名前は?」





恵梨華は慌てたように答えた。





「恵梨華・・・恵梨華です・・・!」





「恵梨華・・・ヒッヒ・・・いい名前だねぇ〜?」





アンダーテイカーは恵梨華の名前を聞くと、落ちた帽子を拾い上げ自分の頭に乗せた。





「ほら・・・」





アンダーテイカーは一枚の紙を恵梨華に手渡した。





「小生の店はここさ。・・・寂しくなったらいつでもおいで?ヒッヒッ」





それだけ言うと、アンダーテイカーはそのままヒラヒラと袖を振りながらその場を去った。





残された恵梨華はいつまでもその紙を大切そうに握り締めていた。





「アンダーテイカー・・・かぁ・・・」





ボソリと呟く恵梨華。





早まる鼓動、恵梨華は紙を見つめながら、胸に手を当てた。





「(あぁ・・・何だろう・・・この気持ち・・・)」





不思議な感覚に困惑しながらも、恵梨華はそのまま家へと向かった。
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