短編夢小説T
□引退した理由
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真夜中の静かなロンドン。
暗い裏路地に響く男の叫び声。
その男を狙う赤い燐光の人影。
ドサッ―
先程まで叫んでいた男が地面に倒れた。
「・・・何度聞いても男の断末魔って耳障りね」
男の死体の上にどっかりと座る恵梨華。
悪魔である恵梨華にとって人間はただの食べ物。
しかし恵梨華は決してその男の魂を喰らおうとしない。
何かを待っているように空を見上げた。
「・・・また貴方ですか」
恵梨華は声のする方を向いた。
「ウィリアム君・・・だっけ?」
ウィリアムの姿を見た途端、肩を落として落胆する。
「魂を喰らう訳でもないのに人殺しとは・・・全く、貴方は何を考えているんですか」
「・・・ここはアンダーテイカーの担当地域でしょう?何で貴方が来るのよ」
「貴方にお教えする事は・・・何もありませんよ」
ウィリアムはカチャリと眼鏡を直した。
そして次の瞬間、恵梨華目掛けてデスサイズを突き立てた。
それをヒラリとかわす恵梨華が宙を舞った。
スチャッ・・
ウィリアムと同じ屋根の上に着地した。
「アンダーテイカーはどこにいるのよ」
「崇高なる死神の邪魔をしないで頂きたい。・・・狩りますよ?」
その言葉を聞いた途端、恵梨華はお腹を抱えて笑い出した。
「あはっははは!ウィリアム君が?この私を?くふふ・・」
恵梨華の馬鹿にしたような態度に、眉を寄せるウィリアム。
そしておもむろにデスサイズを恵梨華に向かって振り下ろした。
「おっと♪」
屋根が音を立てて崩れ落ちる。
恵梨華は宙返りをし、ウィリアムの背後を取る。
そしてその鋭い爪をウィリアムの喉元に宛がった。
「君じゃ私に触れる事すら出来ないよ」
ニヤリと悪魔笑いを浮かべる恵梨華。
ウィリアムはその恐ろしい獣の気配に息を呑んだ。
「教えてくれるよね?ウィリアム君」
ツンツンと爪を押し付けて追い詰める。
「あのお方は・・・・っ・・・!」
言いかけたところで、ウィリアムは目を見開いて驚いていた。
「ちょっと・・!何よ!」
途中で止められ、恵梨華は苛立ちを隠せない様子だった。
思わず声を荒げ、軽く喉に傷を作った。
ウィリアムの真っ赤な血がゆっくりと零れ落ちた。
「その辺にしておやり?」
聞き覚えのある愛しい声。
恵梨華は慌てて声のする方を見た。
「ア、アンダーテイカー!!」
「ヒッヒッヒ・・相変わらず短気だねェ〜?」
恵梨華は頬を赤らめながら、慌ててウィリアムを解放した。
「全く・・・急に別人のようですね、貴方は・・・」
ウィリアムは恵梨華を睨みつけていた。
「まぁいいでしょう。魂の回収は無事終わりましたし、私は本部に戻らせて頂きます」
逃げるようにその場を去った。
恵梨華はそんな事、気にする様子もなく、目の前のアンダーテイカーを見ていた。
「遅いよアンダーテイカー。ウィリアム君じゃ相手にならなくてさ」
指に付いたウィリアムの血をペロリと舐め取る恵梨華。
「・・・・・」
アンダーテイカーはそんな恵梨華を黙って見ていた。
「・・・どうしたの?」
「・・・今日もまた、罪のない人間を殺したのかい?」
アンダーテイカーはデスサイズの刃先で倒れている男を指した。
「私は悪魔だからねぇ?」
ニタリといやらしい悪魔笑いを浮かべる恵梨華。
紅の美しい瞳が怪しい光を放つ。
「魂を食べるワケでもないのに・・・君はどうしてこんな事をするんだい?」
「どうしてって・・・」
恵梨華はシュンッとアンダーテイカーの目の前に移動した。
そして人差し指でアンダーテイカーの顎をぐっと持ち上げる。
「アンダーテイカーに会いたいからよ」