長編夢小説

□君にだけのマゾヒズム
2ページ/6ページ

「・・・ブフフッ。まるでレストランのようだねえ〜?」





シエルを嘲笑うようにケラケラと笑う葬儀屋。





「セバスチャンの料理は美味しいからね。今日はどんなご馳走を作ってくれるのかな」





恵梨華のその言葉に、葬儀屋はピクリと眉を動かした。





「・・・・・恵梨華は小生の手料理より執事クンの料理の方がいいのかい?」





長い前髪に隠された瞳が、鋭くなる。





嫉妬混じりの殺気が、店内に充満する。





すると恵梨華は勝ち誇ったような余裕の笑みを浮かべた。





「・・・・・だとしたら・・・どうするの?」





それはまるで葬儀屋を挑発するかのように。





恵梨華は微笑みながら葬儀屋に近づいていった。





そして葬儀屋の襟首をギュッと掴む。





「クッキーしか作れない能無しが何言ってるの?」





恵梨華はそのまま反対の手で葬儀屋の前髪を荒々しくかき上げた。





「悪魔なんかに・・・害獣風情なんかに負けるなんて。伝説の死神が聞いて呆れるね?」





死神の証拠である黄緑色の瞳をじっと見つめ、罵声を浴びせる。





そして投げ捨てるように、掴んでいた服を放した。





一方葬儀屋は、俯いたまま無言の状態だった。





「・・・・・・・」





動かなくなってしまった葬儀屋だったが、暫くするとふるふると小刻みに震えだす。





そして自分を抱きしめるかのように両腕を掴む。





「ああ〜、いいよォ〜〜・・!恵梨華の罵声が・・・小生を楽園へと連れてってくれそうだよ・・!」





耐え切れなくなった葬儀屋は、恵梨華を抱きしめた。





「もっと・・・もっと罵っておくれよ・・!小生はもう・・・ッ!」





火照った身体を沈める事が出来ず、恵梨華に懇願する葬儀屋。





恵梨華はそんな葬儀屋を白けた目で見ていた。





「んもー・・・まだ朝だよ?夜になるまで御預けって言ったでしょ?」





「だって・・・恵梨華の責めがあまりにも心地よくてねェ・・・?」





「ほら・・・行くよ?」





恵梨華は小さなため息をつくと、葬儀屋を突き放し扉へと向かった。





すると葬儀屋は背中越しに恵梨華に話しかけた。





「首輪を忘れているよ、恵梨華」





その言葉を聞いた途端、恵梨華の動きがピタリと止まった。





「・・・・そうだったね」





恵梨華はくるりと振り向くと、葬儀屋に片手を差し出した。





葬儀屋は何も言わずに差し出された手に首輪を乗せる。





そして恵梨華の前にしゃがみ込んだ。





恵梨華は手渡された首輪を、目の前の葬儀屋の首につける。





「よし・・・これで出かけられるね」





確認するように、グイッと首輪から繋がっている鎖を引っ張る恵梨華。





「おっと。・・・ヒッヒッ、これで完璧だね。さあ・・・出かけようか?」





恵梨華に引っ張られ少しバランスを崩しながらも、葬儀屋は満面の笑みを浮かべた。





葬儀屋は首輪をつけられ、恵梨華はその鎖を持つ。





これが二人にとっての愛の関係だった。





葬儀屋の全ては恵梨華のモノ。まるでそれを見せ付けるかのように。





道中、冷たい視線が二人に向けられようとも、二人が気にする事はなかった。





恵梨華には葬儀屋だけ、葬儀屋には恵梨華だけしか映っていないから。





そしてそんな二人は、ようやくファントムハイヴ邸に到着した。





「シエルー、セバスチャーン」





恵梨華は声を荒げながらも、がしがしと門扉を蹴り飛ばしていた。





隣にいた葬儀屋は、羨ましそうな目で門扉を見つめていた。





「いいなァ〜・・・小生も恵梨華に・・・」





そんな事をぼやいているとセバスチャンが二人の前に姿を現した。





「おはようございます、お嬢様。・・・・・と葬儀屋さん」





恵梨華に対しては笑顔で、そして葬儀屋をおまけ程度に扱うセバスチャン。





葬儀屋は面白くなさそうに口をへの字にした。





「・・・小生はオマケかい?」





「フフッ・・・もちろんですよ」





にっこりと笑顔で対応するセバスチャン。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ