頂き物
□伝説と新人U
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ギイィィーーッ…
バタンッ!
カツコツカツコツ…
恵梨華は店に入ると、葬儀屋に肩を抱かれるように空いている棺の上に腰かけた。
「大丈夫かい?まだ震えてるじゃないか」
「…う、うん」
あの赤い血色の瞳を思い出すだけで、背中にゾクッと寒気がした。
―――アレが悪魔の瞳。
「私…あんな悪魔に会ったのは…初めてで…」
「ああ、下級悪魔はそこらへんにうじゃうじゃいるけど、あのクラスはそうそうお目にかからないからねぇ。無理もないさ」
葬儀屋は恵梨華の隣に腰かけると、宥めるようにその肩を抱き寄せた。
「いいかい?あの執事君には気をつけるんだ。害獣風情が燕尾服なんか着て、一体何を企んでいるのやら…。出来る事なら、君は金輪際関わらない方が良い」
気遣うような優しい言葉に顔を上げると、淡い黄緑色の瞳に見つめられていた。
トクンッと心臓が跳ね上がる。
「あ、…ほ、ホント情けないよね。死神が悪魔に怯えるなんて」
自分の鼓動が早まるのを誤魔化すように、恵梨華は無理に笑顔を作った。しかし、そんな彼女の表情に、葬儀屋は少しだけ眉を寄せる。
「いいや。それは逆だよ」
「…え?」
「相手の力量をひと目で図れるのは、潜在能力が高い証拠だよ。どっかのツンツン坊や(ロナルド)なんかは、執事君を軽視したばかりに、ボコボコにやられてた事があったっけ…グフッ」
「?」
何か楽しい事でも思い出したのだろう、葬儀屋の口元に怪しい笑みが浮かぶ。
「いいかい?相手の力量を見誤れば、すぐに命の危険に晒される。恵梨華は能力の許容量、つまりcapacity が他の死神に比べて大きいのさ。ただその殻を割りきっていなかっただけで、もともとの潜在能力は十分あったんだよ」
「capacity (キャパシティー)?」
「ああ。それが少なければ、どんなに努力しようと無駄なのさ」
「でも…」
「ん〜?」
何かを言いかけた恵梨華だが、直ぐに話を切り替えてしまう。
「…何でもない。あのね、今日は協会長のお使いでお邪魔したの」
「お使い?」
「うん。はい、これ…」
協会長から預かった手紙を差し出すと、葬儀屋は困ったように苦笑を浮かべ受け取った。
「・・・・・・。」
「…読まないの?」
一向に読む気配がないので声を掛けてみると、意外な言葉が返ってきた。
「…まあ、読まなくても分かってるし」
「?」
そんな呟きに首を傾げていると、ふとカウンターが目に入った。その上には、ワイングラスが二つ用意されていた。
―――グラスが二つ。
これから、誰かと会うの?
そう思った途端、胸に僅かな痛みが走った。
「あ、もしかしてお客さんが来るの?もしそうなら、私そろそろ…」
胸の痛みを振り切るように急いで立ち上がると、不意に手を掴まれた。
ガシッ…
「……っ!?」
「お客さんなら、もう来てるよ」
葬儀屋は大きな溜息をつくと、カウンターに視線を向けた。
「アレは恵梨華の為に用意したんだよ」
「…え?」
「配属先が決まったお祝いと、そして…」
サラッ…
サラリと音を立て、長い銀髪が頬を掠めたと思った瞬間、素早く唇にキスをされた。
「/////////」
「君の誕生日のお祝いを兼ねて…」
頬を真っ赤に染める彼女の顔を、葬儀屋は目を細めて優しく見つめる。