頂き物
□伝説と新人U
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予想外の不意打攻撃に、恵梨華の心臓は爆発寸前。
「え!?…あ、あの…?」
「HAPPY BIRTHDAY〜恵梨華〜♪」
驚く彼女を横目に、葬儀屋は悪戯が成功したと満面の笑みを浮かべる。
「だって、今日は君の生誕日だろ〜う?」
「…そう、言われれば…そうかも」
正直、恵梨華は戸惑っていた。誕生日のお祝いなど、今までしてもらった事がないのだから無理もない。
豆鉄砲を食らった鳩のように、目をパチクリさせる彼女に葬儀屋は苦笑する。
「可笑しいか〜い?小生は半世紀近くこっちで暮らしているから、人の習慣が自然と身についてしまってねぇ」
「習慣?」
「…そうさ」
カツコツカツコツ…
「死神は長い長い時間を過ごすから忘れがちだけど、人は毎年、誕生日にはお祝いをしてるんだよ」
困惑する恵梨華の手を引くと、そのままカウンターの席へと誘い、そっと椅子に腰かけさせた。
「命を授かった事に感謝し、そしてこれからの健やかな生活を願って祝う」
カウンターの上には、蝋燭が一本だけの小さなケーキが用意されていた。葬儀屋はそれに、そっと火を点けた。
ボッ…
薄暗い店内に、ゆらゆらと揺れる静かな明かりが燈される。
「普通ケーキには、歳の数だけ蝋燭をつけるんだけど…まあ、死神の場合はケーキが針鼠になってしまうから止めておいたよ…ヒヒッ」
「これを、アンダーテイカーが?」
「…ああ。不格好だけど、…まぁ、愛情はたっぷり入れといたよ」
「…あ、愛情…!?」
愛情という言葉に恵梨華の心は大きく揺れる。
スッ…
「……あっ」
すると、不意に手が伸びて来て顎を軽く掴まれた。
「恵梨華、これだけは言っておくよ?」
二人の視線は重なり、恵梨華の鼓動は自然と早くなる。
「小生は誰でもいいなんて思っていなかったし、気まぐれや暇つぶしで、あんな【特訓】なんか施さない。それに誰でもかれでも、小生の特訓を受けたからって能力が上がる訳でもない」
葬儀屋の黄緑色の燐光が、蝋燭の灯りを受けて怪しく揺れる。
「小生はあの大会で、恵梨華という原石を見つけたんだ」
「アンダーテイカー」
戸惑うように揺れる濃い黄緑色の瞳を、葬儀屋は優しく見つめる。
「死神としても、女性としても、極上の原石を…」
「…そ、それって」
「恵梨華…君が、好きだよ」
吐息がかかるほどの近距離で
甘い愛の囁きが聞こえた。
まるで視線を絡み合わせるように
長い指で顎を持ち上げられた。
互いの黄緑色の視線が交わると
優しく包み込むように
そっと唇が覆われた。
視界は銀一色に彩られ
温かく、柔らかい唇の感触。
軽く啄むような甘い口づけは
頑なな恵梨華の心もを
蕩かしていくようだった。
「ぁ、…テイ…カー」
やっと唇を開放された恵梨華は恍惚とした表情を浮かべていた。キスの余韻に浸っているような、そんな可愛らしい姿に葬儀屋は困ったように苦笑する。
クイッ…
再び強く顎を持ち上げられ
淡い黄緑色の瞳に顔を覗かれる。
「ねぇ、恵梨華…」
名を呼ばれ、夢現に顔を上げると、拗ねたように眉を寄せる葬儀屋の綺麗な顔がすぐ側にあった。
「それなのに、君は…小生に随分と冷たい仕打ちをしてくれたよねぇ〜?」
「うっ」
心当たりがあるだけに、恵梨華は言葉を詰まらせる。